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中小の生産現場に「IoTリーンスタート!」の定着を図る【大阪府IoT推進ラボ】

辻野 一郎(大阪府 中小企業支援室)
2019年6月7日

庶民的でエネルギッシュなイメージが強い大阪府は、歴史と伝統を持つ文化都市であり、繊維や製薬、製造などの大手企業の本社や、それらに関連する中堅・中小企業も多数活動する大都市である。そうしたなか、地域の活性化に向けて特に重点を置くのが中小企業のイノベーション。大阪府IoT推進ラボでは、中小企業へのIoT(Internet of Things:モノのインターネット)定着に向けた「IoT診断」プロジェクトを2017年6月から推進している。大阪府IoT推進ラボの取り組みを紹介する。

 漫才や大阪弁、タコヤキといった粉もんフードなど、大阪には庶民的でエネルギッシュ、いわゆる“コテコテ”のイメージが強い。その一方で、歴史と伝統を持つ文化都市でもある。仁徳天皇陵など巨大な墳墓を含む百舌鳥古市古墳群や、四天王寺や住吉大社といった社寺仏閣を域内に抱え、文楽や落語という古典芸能を育んできた(写真1)。

写真1:“コテコテ”のイメージが強い大阪府は歴史と伝統を持つ文化都市でもある。写真は左上から時計回りに、世界遺産に登録された百舌鳥古市古墳群、住吉大社の「反橋(太鼓橋)」、中央公会堂(重要文化財)、住吉大社の本宮(国宝)

 経済活動においても、繊維や製薬など古い歴史を持つ企業が集積している。製造分野でも、世界にそのブランドを展開している大阪発の企業も少なくない。彼らの躍進を裏側から支える中小企業も多数存在しており“中小のものづくり企業の街”だとも言える。

高度に自動化された生産ラインのIoT事例は、そのままでは適用できない

 製造業における今後の競争力強化に向けては、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)への期待が高い。ドイツのIndustry 4.0に呼応したボッシュやシーメンスのSmartFactoryや、日本の自動車メーカーなどの高度に自動化された生産ラインを対象にした成果事例が多数、報道されている。

 しかし、大阪の中小ものづくり企業の現場の多くは単工程であり、切削・表面処理など、各社が独自の強みを持つ工程に絞り込んだビジネスモデルになっている。そのため、大阪の中小企業の現場には、大手企業の成功法をそのままの形で適用することは困難だ。

 つまり、大阪の中小企業の現場に特化したIoT導入モデルを確立できなければ、大阪の中小企業へのIoT導入は進まない。中小企業がイノベーションを起こし、生産性の向上や地域経済を牽引できる状況を創り出さなければ、中小企業の街である大阪は、時代から取り残されてしまうという危機感が、ここ大阪にはある。

 加えて、中小企業のIoT導入に向けては、前述の中小企業に最適なIoT導入モデルの提唱だけでなく、解消しなければならない、さまざまな阻害要因がある。具体的には、次の3点だ。

(1)導入方法がわからない:さまざまなデバイスがあり、情報過多で選択できない
(2)どれくらい投資すれば、どんな効果があるのか、経営上の投資対効果が見えない
(3)社内にITの専門人材がいない

シリコンバレーのスタットアップにならい“リーン”スタイルを採用

 時代から取り残されるという危機感と、これら阻害要因をどうすれば取り除けるのかなどを検討した結果、大阪府IoT推進ラボでは、中小企業の生産現場にIoTを普及させるために、中小企業の視点から、それぞれの現場に最適なIoTを確実に導入していくことにした。最先端技術の開発や実用化を目指すような“華やかさ”はないものの“地道な”活動こそが必要だと判断したからだ。

 その活動を、米シリコンバレーのスタートアップ企業の起業スタイルである“リーンスタート(小さく始め仮説検証で育てる)”にならい「IoTリーンスタート!」と呼んでいる。同理念に基づき3つの事業を実施する。(1)IoTリーンスタート!セミナー、(2)IoT診断、(3)IoTマッチングである(図1)。

図1:「IoTリーンスタート!」の全体概要

 中でも着実な導入に向けて重要なのが、2017年6月に立ち上げたIoT診断プロジェクトだ。製造現場の業態や環境は多種多様である。それだけに各現場に最適なIoTソリューションを提案するためには、企業それぞれのニーズと現場の実情を把握したうえで、最もシンプルで効果を体感しやすい利活用方法を見いだす必要がある。こうした過程を踏まえたIoT導入に向けた助言を「診断」として提案する。

 それだけの助言を実行できる人材としては、「IT分野に精通した中小企業診断士」が必要かつ最適任と考えている。大阪府中小企業診断協会に協力を求め、適任者として推薦を受けた6人が製造現場を実際に訪問し、ヒアリングによって企業自身も気付いていないような課題や悩みをも発見するというIoT診断を支えている。