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ナスの収量予測でAIと人が初対決、データ駆動型園芸農業を推進【高知県IoT推進ラボ】

高知県農業技術センター研究員v.s.東京大学越塚研ラボAIエンジン

越塚 登、崔 鐘文(東京大学大学院)
2019年7月19日

より良い契約条件で出荷できるよう出荷時期を調整したい

 高知県IoT推進ラボの活動から生まれたプロジェクトの1つに、ナスの栽培における生育データや環境データなどを学習させたAIエンジンを開発し、ナスの出荷数の予測精度を向上させるものがある。高知県農業技術センターと、高知県IoT推進アドバイザを務める筆者、越塚 登(東京大学教授)の研究室が共同で取り組んでいる。

 ナスは前述したように、高知県における主要な園芸作物の1つであり、出荷時期をうまく調整できれば、よい契約条件下で出荷でき、それによって、生産者の所得向上を実現できる。つまり、近郊農業が取り組む露地栽培による作物の出荷が“谷”の時期に出荷できれば非常に有効になる。

 出荷時期を調整するためには、制御可能な環境データと成育状況の間にある関係を熟知する必要がある。そのためにはまず、生育データや環境データなどから出荷数を予測できなければならない。だが、出荷数予測はこれまで、農家にとっても難しい問題だった。これまでの経験と勘だけでは、なかなか精度が上がらないことが悩みである。

 そこで今回、データを駆使したAIエンジンの開発に取り組んだ。県農業技術センターが環境データや気象データ、生育データ、収量データを提供。東京大学・越塚ラボの崔鐘文 氏が、これらデータを学習させたAIエンジンを開発した。

 これまでに、開発したAIエンジンと、実際にナスを栽培している農業技術センター研究員の浅野 雄大 氏の、どちらが実数に近いかを比較する予測会を2019年3月と同5月の2回実施した。2週間後の収穫果数を予測するもので、その都度、誤差を分析し、方式の改善と予測精度の向上を図ってきた(写真3)。

写真3:出荷時期予測用AIエンジンの開発に取り組んだ、浅野 雄大 氏(高知県農業技術センター研究員、左)、崔鐘文 氏(東京大学大学院生)、越塚 登 氏(東京大学教授)。写真は人とAIの対決時のもの

 農業技術センターが取得しているデータは、1分ごとの環境データ(温度、湿度、二酸化炭素濃度、日射量)と収穫データ、つまり実験対象のナスの花ごとの開花日・収穫日である。これらデータから、どう収穫を予測しているのか。その手法はこうだ。

 まず、花一つに対して、その花の累積環境データを機械学習であるニューラルネットワークを用いて「何日後に収穫できるか」の収穫所要日を計算する。たとえば、ある花が2月3日に開花し3月10日に収穫できたというデータに関して、2月28日を予測する日とすれば、その日は、まだ収穫できていない状態なので、「この後何日残っているのか(この例では残り10日)」というデータをAIに学習させる。

 ただ、この手法には日射量の変動と落花率の2つの課題があった。日射量の変動は、収穫に大きく影響を及ぼす。大雨のせいで日射量が大幅に少なくなれば収穫所要日が大きく延びてしまうからだ。また、この手法では、「開花すれば、すべて実になる」と想定しているため、人間による予測値より多めに予測することがある。実際には、落花して実にならない花が相当数ある。そこで、落花率と日射量予報値を考慮して改善した。

ナスの出荷数予測対決で研究者にAIが勝利

 ナスの出荷数予測プロジェクトの集大成として2019年6月27日、高知県農業技術センターにおいて、ナスの環境データとナスの生育データを解析し、収量を予測するAIエンジンを用いた「ナスの収量予測対決」を実施した。対決条件は以下の通りである。

[対象] 高知県農業技術センターのビニールハウスで栽培されているナスの4つの株

[使ったデータ1] 学習データとして、対象の4つの株に関する、2015年9月〜2016年6月、2017年9月〜2019年2月までの環境データ、気象データ、生育データ、収穫データ

[使ったデータ2] 入力データとして、イベント日(6月27日)の2週間前である6月12日までの環境データ、気象データ、生育データ、収量データ、および6月12日〜6月27日までの予測日射量(天気予報、Accuweatherのデータ)データ

[予測内容] ナスの実ごとの適正出荷日の予測と、それを日数ごとに集計した収量の予測(収量は、週の収穫日である6月21日、24日、26日の収穫量)