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  • 本当にビジネスの役に立つSAP流デザインシンキングの勘所

ビジネスパーソンに「デザイン」は必要か?【第6回】

原 弘美(SAPジャパンソリューション統括本部イノベーションオフィス部長)
2019年5月8日

仕事の定義も変わっていく

 現代は、第3次AI(人工知能)ブームだと言われています。第1次、第2次のブームと比べて状況が圧倒的に異なるのは、以前は人間が機械に教えこんでいた「ものを見分ける基準」である特徴量を、機械自身が学習し獲得できるようになったことだとされます。

 AIが能力獲得に際して人への依存度を弱める一方、コンピューターの計算能力は圧倒的に向上し、ネットワーク化によって利用できるデータ量も膨大になるいばかりです。

 この流れに沿って、2045年にはシンギュラリティ(技術特異点)を迎え、人間の能力を凌ぐAIが登場するという予測があります。現時点では人と機械が分担している仕事の割合が7:3であるのに対し、自動化が進む2025年には、およそ半々になるという予測もあります(『Future of Job Report 2018, World Economic Forum』より)。

 こうした技術革新とは別に、もう1つ考えておきたいことがあります。それは、私たちがビジネスパーソンとして働き、世の中に価値を提供し続ける期間です。

 私たちの平均寿命は伸長の一途をたどっています。2007年に生まれた日本の子どもたちは107歳まで生きるだろうとも言われています(『”We’ll live to 100 – how can we afford it ? World Economic Forum』より)。それに応じて、定年を迎える年齢は今後も見直しが続くでしょう。仮に、何らかの形で85歳までは働くことが一般的にとなれば、大学卒業から数えたキャリアの継続期間は63年にも及ぶことになります。

 技術的進化や社会変化が激しい世の中にあって、それだけの長期にわたる社会人生活を現役として乗り切るには、継続的に学習するだけでなく、過去に獲得した能力や学習内容を積極的に捨てる(UNLEARN)能力も必要になってくるでしょう。

自らの人生をデザインできる力が求められていく

 社会人にとっての“学習”は今後、意識の高いビジネスパーソンが業務時間外に取り組む付加的なものではなく、長期にわたるキャリア形成の一部として、誰もが、場合によっては仕事を一定期間離れてでも取り込むべき対象になっていくかもしれません。そして年齢に合った働き方の、より多様な選択肢が求められることでしょう。

 働き方の多様性について、日本では、ようやく議論や取り組みが活発になってきたところです。少子高齢化や平均寿命の伸長など、予測可能な変化だけを眺めても、ビジネスパーソンとしてのあり方、仕事との付き合い方について、新しいスタンダードが必要な時代になったと言えるのではないでしょうか。

 一生涯を1つの会社だけで過ごす働き方は今後、少なくなっていくでしょう。会社に所属しているサラリーマンであっても、パラレルキャリアとして複数の団体や企業に所属して専門性を発揮したり、社内企業家として活躍したりするなど、企業と人との、より柔軟な関係性が、より一般的になっていくはずです。一人ひとりが自分の人生や、仕事、働き方をデザインする時代になるのです。

 柔軟な働き方の行きつく先として、「解くべき課題に対し個々人が手を挙げ、能力を組み合わせてプロジェクト方式で働く未来が来る」という考え方があります。映画の制作や、サッカーなどのスポーツにおけるナショナルチームの結成に似ているかもしれません。エンターテイメントやスポーツだけでなく、ビジネスの現場でも、解くべき課題という共通の方向性を一定期間共有し、いいパスを回すようにビジネスを回すのです。

 スタートアップ企業の中には、上司も部下もない、組織階層を持たない「ホラクラシー組織」の形態を採る企業も出ています。そうした企業をはじめとして、企業内レベルではプロジェクト型の働き方が現実のものになって来ています。

 プロジェクト型の働き方において、集合知をクリエイティブな形で発揮させる際に、メンバー間の共通語としてのデザインシンキング能力が役立つのではないかと筆者は考えます。それが発する効果は大きいはずです。