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  • 本当にビジネスの役に立つSAP流デザインシンキングの勘所

企業レベルでデザインシンキングを定着させるには【第4回】

原 弘美(SAPジャパンソリューション統括本部イノベーションオフィス部長)
2019年3月6日

前回は、ビジネスとデザインシンキングの関係性について解説しました。デザインシンキングは、消費者向け企業専用ではないことや、既存の課題に新しい解釈をもたらしたり、とらえどころのない課題に取り組んだりするのに役立つものであり、どんな仕事・業界に関わるビジネスマンであっても活用できることをお伝えしました。ではデザインシンキングを企業レベルで活用するには、どうすれば良いのでしょうか。

 デザインシンキングがどういうものかを短い時間で紹介しなければならない際に、筆者がよく用いるのが「マシュマロチャレンジ」です。これは、パスタを使って、できるだけ高い塔を建て、その上に載せたマシュマロの高さを18分間で競うチームビルディングのためのゲームです。

参加型ミニゲームでデザインシンキングの理解を深める

 マシュマロチャレンジのメリットは「知っているという思い込みを捨てる」「頭で考え過ぎず、まず実践する」「小規模な実践を繰り返し、そこから学ぶ」ことの大切さをチームメンバーと共に、わずか18分で体験できるという点です。この説明自体が、ゲームで勝つための、かなり重大なヒントになっています。

 これら3つは、これまでの連載で紹介した、デザインシンキングのマインドセットに含まれます。ビジネスマン諸氏が、このミニゲームに取り組む様子を眺めてみれば、あるミッションを課せられたとき、私たちが、いかに思い込みに基づいて判断し、頭でたっぷり考え、試してみることを忘れてしまっているかがわかります。

 普段の私たちの行動特性を理解するために、ゲームを先に実施するケースが多いのですが、マインドセットの重要性を説明した後で実施することもあります。その場合は、頭で理解していたとしても、行動を伴わせるのは難しい、つまり「実用のレベルで理解するのには行動や経験が必要である」こと知ることにもつながります。

 マシュマロチャレンジには4人1組で取り組みますが、チームメンバーの構成や、メンバーそれぞれの特性などによっても成否に違いが出てくることも興味深いところです。

 「試してみたい」と思われる方のために、これ以上の説明は避けます。やり方や効果を、プログラマーでビジネス開発にも取り組むトム・ウージェック氏がTED Talkで紹介しているビデオがありますので、皆様もぜひチャレンジしてみてください。

 こうした参加型のミニゲームを取り入れることは、言葉では伝わりにくく、また定着しにくいデザインシンキングのマインドセットを理解しやすくし、その理解をチームで共有するのに役立ちます。導入初期は、短い時間で本質的なメッセージを理解できる機会を繰り返し提供することで、取り組みに対する意義への理解や、認知を広められます。

企業レベルのデザインシンキング導入を阻む壁

 デザインシンキングの導入を志してはみたものの、活用の域に達していない企業の例もよく見かけます。前に進めない原因は各社各様ですが“典型的な現象”も存在します。そんな現象のそれぞれに名前をつけてご紹介しましょう。

「お財布のデザインはできるけど」現象

 「お財布のデザイン」は、1〜2時間のデザインシンキングの体験講座で選ばれがちな課題の例です。やる気のある個人が自発的に、公開講座などに参加する形式が多いようです。そうした場では、集まった人たちが共通の課題を持っていない前提で進めなければならないため、「目の前にいるパートナーのために、新しいお財布をデザインする」といったシンプルな課題が課されます。

 プロセスの体験が主眼ですから講座の目的は達成しているのですが、ここで習ったことを、ひとたび自身のビジネスに適用してみようと考えると、途端にハードルが上がるのです。

 講座では目から鱗の体験をし「ぜひ自社で使ってみたい」と願う人も、現実世界にある、もっと複雑な課題を前にすると、どこから着手したらいいかわからず立ち往生してしまう、ということになります。

 個人が寄り集まって発生する「デザインシンキング同好会」のような草の根活動もよく見られます。ただ残念ながら、企業レベルのイノベーション活動を盛り上げるまでにはつながらないケースが多いように思います。