- Column
- 本当にビジネスの役に立つSAP流デザインシンキングの勘所
ビジネスパーソンに「デザイン」は必要か?【第6回】
イノベーターの振る舞いが学習可能な“型”になった
阪急東宝グループの創業者や宝塚歌劇団の設立者として知られる小林 一三 氏は、日本人イノベーターの1人でしょう。彼は、鉄道員やレストランスタッフとして現場に紛れ込み、顧客がどのような体験をしているのかをつぶさに観察しながら、新しいビジネスに向けたヒントを得ていたといいます。小説家を志したこともあるという同氏は、人一倍優れた観察眼の持ち主だったことでしょう。
鉄道を走らせながら、エンターテイメントや小売業を展開していく小林 一三。電子を走らせながら、業界の枠を越えて新しいサービスを生み出していく昨今のディスラプターたち。両者の共通点は、デザインをビジネスに活用し「誰にどんな形の将来を提供したいのか」というコンセプトを明確に描けるビジネスパーソンだということでしょう。
デザインシンキング自体は特に目新しくはないと筆者は考えます。小林 一三氏やスティーブ・ジョブズ氏といったイノベーターは、観察から共感を育て、そこから新たな問題を提起し、固定概念を捨てた考え方と反復によって解決策を創出し、そのアイデアを世に問うてきました。
そのプロセスやマインドセットがデザインシンキングですが、それを彼らは生まれながらの素養として備えていたのです。その振る舞い方や考え方が“型”として解き明かされ、デザインシンキングとして学習可能になったことに大きな価値があると筆者は考えています。
連載の第1回で触れたとおり、デザインシンキングブームは終焉の時を迎えています。過大な期待によって膨らんだブームは、終わるのが健康的だとも感じます。
一方で、自らのこれから、ビジネスのこれから、そして社会のこれからを、より良くデザインしていくために、後天的にイノベーターの素養を獲得できる手法としてのデザインシンキングが当たり前のように使われるようになった時、ビジネスの現場は、もっと創造的に革新を内包するものに変わっていくのではないかという希望も持っています。
この連載を通じて、デザインシンキングの価値や有用性、活用方法のヒントをお伝えでき、より良い未来の実現に、ほんの少しでも役立てたとすれは、これほど嬉しいことはありません。
今回で連載は最後になります。これまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
原 弘美(はら・ひろみ)
SAPジャパンソリューション統括本部イノベーションオフィス部長。Hasso Plattner Institute D-School認定デザインシンキング・コーチ。SAPジャパンでは、ハイテク業界、食品消費財業界、製薬業界への製品展開、日本向け機能の開発、顧客提案支援などに従事。ビジネスプロセスマネージメントやマスタデータ管理などの顧客提案担当を経て、SAP が対外的にDesign Thinking with SAP を展開しはじめた2013 年より、SAPジャパンにおけるDesign Thinkingの展開、顧客提案における活用を推進。2016年よりSAPアジア・パシフィック地域Design Thinking with SAP リードも兼任。中央大学法学部卒業。