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ライオン、企業文化とデジタルの化学反応から新たな“幸せ”をもたらす価値を創出

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年1月25日
ライオン 研究開発本部イノベーションラボ所長の宇野 大介 氏

2018年、イノベーションの創出を目指す新組織「イノベーションラボ」を新設したライオンがCEATECに初出展する。ライオンは、どのような未来の暮らしを描いているのか、イノベーションラボを率いる宇野 大介 氏に聞いた。(聞き手は志度 昌宏=DIGITAL X編集長)

(本稿は、『Society 5.0テクノロジーが拓く私たちの未来』(JEITA:電子情報技術産業協会、2018年10月)からJEITAの許可を得て掲載しています)

−−暮らしとの関係が深いライオンは「Society 5.0」をどう捉えていますか。

 当社は1891年の創業以来、洗剤やハミガキを中心に、日々の暮らしに役立つ製品/サービスの提供に努めてきました。2018年度には、2030年に目指したい姿として新経営ビジョン「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」を策定しました。

 その背景には、デジタルトランスフォーメーションの大波が社会に押し寄せるなか、現状の延長では先行きが厳しいという危機感があります。そこで、新規事業の創出に全社で取り組み、それを加速させるためのハブとして2018年1月に「イノベーションラボ」を新設しました。デジタル技術によるイノベーションを起こし、従来どおりの取り組みでは難しい“驚き”のある事業の創造に取り組んでいます。

 当社の製品開発は、薬事法などの制約条件の下、いわば“優等生的”に進めるべきものです。そういった、ものづくり文化に新しい切り口をもたらすのがデジタル技術です。当社の人材あるいは企業文化がデジタル技術と化学反応を起こすことで全く新たな何かが生まれる。これがイノベーションラボの存在意義です。

「今日を愛する。」気持ちを届ける

 その課程で重要視しているのが、顧客体験価値、すなわち新たな視点による“幸せ”の創出です。当社が目指す次世代ヘルスケアは、病気になるのを防ぐといった身体や心の健康にとどまらず、清潔さを保つなど普段の生活にまつわること全般が対象です。健やかさを保つ習慣を、デジタル技術によってさりげなく支援し、当社のコーポレートメッセージである「今日を愛する。」という気持ちをお客さまに届けたいのです。

−−始動したばかりのイノベーションラボですが、手応えはありますか。

 イノベーションラボでの取り組みは当社にとって初めてのことばかりです。ですので、オープンイノベーション(共創)の考え方で、すでに技術や知識を保有する企業の協力を得ながら活動しています。

 なかでも、これまで出会うことのなかったデジタルな人材と話すようになり毎日、新たな発見をしています。特に、独SAPと組んで進めているデザインシンキングは新鮮でした。

 当社の製品開発はこれまで、既存製品の延長線上にありました。それに対してデザインシンキングでは、お客様を観察し、困りごとを抽出してから解決する手段を突き詰めていきます。つまり製品は悩みを解決する手段の1つでしかないという点に改めて気付かされた意義は決して小さくありません。

 もちろん、これまでも洗剤などの開発で家電メーカーと共同で取り組むなどの事例はありました。そこでも彼らだからこそ気付ける課題があります。そうした協業は今後も継続して力を入れていきます。

−−CEATECに初出展しますが、その理由は。

 現段階での成果を発表する場として最も意外性があり、かつ効果的だと考えたからです。「ライオンがCEATECで一体何を展示するのだろう」という興味を持っていただけると期待しています。技術面でのパートナー企業の開拓と、新事業のビジネスパートナーの開拓の2つを狙っています。