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One to Oneマーケティングを進化させる利用者情報【第3回】

清家 直裕(ADKマーケティング・ソシューションズ デジタルビジネスプロデュース本部 本部長)
2019年7月25日

「富山の薬売り」はご存じだろう。江戸時代に始まったとされるそれは、薬売りの商人が各家庭を定期的に訪問し、使った分の薬代を請求したり補充したりする販売方法だ。各家庭の状況などを把握したうえで最適な薬を置いていくことや、以前の会話内容を踏まえて最適な会話をするなど、まさに現代の「One to One」サービスと言える。ではデジタル時代の「One to One」サービスは、どのように実現されているのだろうか。

 デジタルテクノロジーを活用することで、「One to One」サービスは至るところに見受けられる時代になった。実際には、そうした仕組みの存在を意識せずにサービスを利用している人も多い。

 具体例を挙げれば、各サイトを閲覧している際に表示される広告、EC(電子商取引)サイトを閲覧した際にレコメンド(推奨)される商品など、利用者のそれぞれが最適なサービスを受けられるように設計されている。

 最近の筆者の経験で言えば、スマートスピーカーの「Google Home mini」と連携している音楽配信サービス「Google Play Music」で90年代のバンドブーム時の曲を聞いていたら、次から次へと同時代のヒット曲が流れてき、心地いい気分になって、その音楽を音楽配信サイトで購入した。映像配信も同様に、これまでなかった新しい消費を生み出している。

 こうしたサービスの裏側には、利用者のデータが存在する。「この商品を購入した人は、この商品を買っています」「この音楽を聴いている人は、このアーティストも聴いています」といったデータだ。多くの利用者データを集め、それを分析することで、個々の利用者に何を提案するかを決定し提案する。さらに、その提案を受けた利用者の行動や結果をまた蓄積し分析する。そんなサイクルがサービスを洗練させていく。

サイトの裏側で瞬時に広告枠がオークションされている

 では、各サイトを閲覧している際に表示される広告は、どのように個人に最適化されているのか。その仕組みを示したのが図1である。

図1:サイトにおいて広告が表示される裏側で動作している仕組みの概念

 サイトに広告を表示するために、その裏側では(1)SSP(Supply Side Platform)、(2)DSP(Demand Side Platform)、(3)DMP(Data Management Platform)の3種のツールが連携して動作している。

 SSPは、サイト(Publisher)の広告枠を預かり、DSPとの間で、その広告枠をオークションによって売買するためのツール。DSPは、広告主・広告会社が利用するツールで、デジタル広告のプランニングやバイイング、レポーティングの最適化を図っている。

 DMPが利用者データを管理するためのツールだ。個社のデータのほか、第3者が提供する外部データなどを管理・運用している。

 利用者がサイトにアクセスすると、そのアクセス情報がSSPに伝わり、広告枠のオークションが始まる。するとDSPは、DMPが持つ利用者データを参照しながら、その利用者に届けたい広告などを選択し、SSPと広告枠を売買する。オークションはレイコンマ何秒単位で発生し、瞬時に落札者が決まる。

 広告枠の落札者が決まれば、その情報がサイトに戻され、サイトがDSPに対し広告配信を依頼することで、実際の広告がDSPから配信される。なのでSSPやDMP自体は広告そのものを扱わない。

 配信した広告に対する利用者のアクション情報がDMPに蓄積されていく。広告をクリックし閲覧したページや、そこで購入した商品、会員登録したかどうかなどである。これらの情報は次の広告配信時に利用される。「広告をクリックしてサイトを閲覧したが、商品を購入しなかった利用者には10%オフを提案する」といった広告展開が可能になる。