- Column
- スクラムで創るチームワークが夢を叶える
イノベーションを起こせる組織の条件とは【第1回】
このイノベーションを生み出す組織に現在、最も当てはまるのが先に紹介したAmazonだろう。そのうえで野中氏は、Amazonと対照的な日本企業の問題点を挙げる。
「日本企業の最大の問題は、オーバープランニングでしょう。何か新しいことをしようとすると、徹底的に調査をし、分析をし、詳細な計画を立てる。計画はまず現場レベルで作られ、多層的にチェックされ、長い時間をかけて承認されます。しかし、その間に、イノベーション企業は、日本企業のはるか先をいってしまうのです」
たとえば、2011年にAmazonがクラウドサービスの「AWS(Amazon Web Services)」を日本で開始した際、多くの日本企業がAWSに対抗しようとした。だがAWSと日本企業の差は縮まるばかりか、年々開いている。2019年時点では、多くの日本企業は既にクラウド事業から撤退するか、AWSのリセーラー(再版事業者)になっている。
各社とも”打倒Amazon”のための詳細な計画を立てたはずだ。しかし、実行に移ったときにAWSは、さらに先を行っており、もはやその背中は見えなくなってしまっている。
野中氏との面談により、イノベーションを生み出せる組織に関する理解は深まった。同時に「既存の日本企業をイノベーティブな組織に変換することは難しい」とも思えた。日本企業がオーバープランニングになる原因の1つが階層型組織にあることは間違いないだろう(図2)。その階層型組織は、顧客価値に沿った小さなチームがフラットに広がる組織とは真逆であるからだ、
経営陣の固い決意がイノベーション組織への変革の鍵
Scrum Inc. Japanの立ち上げに際し筆者は2017年1月、米ボストンへSutherland博士に会いにいった。そのときSutherland博士は、イノベーティブな組織への変革の鍵は「経営層の固い決意だ」と教えてくれた(写真1)。
「職能別の階層型組織を、顧客価値に沿った小さなスクラムチームに変革すると、経営層の役割は、従来の計画の承認と進捗の管理から、スクラムチームの自律と協調を促進するために会社の方針と状況を透明化し、新たな企業文化を創り上げていくリーダーシップに変化します」
日本企業の多くは、スクラムの導入を単なるシステム開発手法の変更ととらえている。だが実際には、企業文化の変革であり、経営層のコミットメントが欠かせない。経営層がスクラムを十分に理解し、固い決意をもって新たな企業文化をリードできれば、持続的なイノベーションを生み出す組織へと生まれ変われるはずだ。
次回からは、企業のビジネスリーダーを対象に、企業レベルでの変革に向けたスクラム導入のポイントや、各社の事例なども紹介し、持続的なイノベーションの実現に向けた組織変革の指針を提供していきたい。
和田 圭介(わだ・けいすけ)
Scrum Inc. Japan Senior Coach。大学卒業後、KDDIにおけるIoTビジネス・クラウドビジネスの立ち上げ、トヨタ自動車への出向などを経て、2019年4月より現職。KDDIにおけるスクラム導入、プロダクトオーナーとしての経験を生かし、主に大企業におけるスクラム導入を支援。スクラムの普及を通じて、日本中の働く人々が幸せになり、日本から新たなイノベーションが次々と生み出されるようになることを目指している。