- Column
- スクラムで創るチームワークが夢を叶える
顧客にフォーカスした新たな組織構造をデザインする【第6回】
前回、企業が変革のスピードを速めるためには、変革リーダーの“信念”が重要なことを指摘した。組織変革のビジョンを策定したリーダーが次取り組むことは、顧客にフォーカスした新たな組織構造のデザインである。今回は、変革のための組織のデザインについて説明する。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、社会の複雑性を高めている。それに対処するために企業は、スクラムに取り組み、変革のスピードを速めようとしている。
スクラム組織にフィットする組織構造は、従来の役割別階層型組織の構造と大きく異なる。変革のリーダーは、新たな組織構造のゴールを策定したうえで、ゴールに向けた変革のバックログ(やるべき仕事)を作成し、優先順位をつける。そして、スクラム組織全体のパフォーマンスの最大化に向けて、変革のバックログを一つずつ実行していく。
スクラムチームを活かす組織構造の5つの考慮点
その際、スクラムチームの創造性や機動性を活かすためには、新たな組織構造して主に以下の5つを考慮しなければならない。
(1)ビジネスとITを一体とした新たな組織設計
(2)スクラムチーム横断の調整の仕組み
(3)明確で柔軟な会社の方針管理の仕組み
(4)できるだけ早く意思決定をするための仕組み
(5)チームのスキルとモチベーションを向上させる人事評価の仕組み
それぞれの考慮ポイントを見ていこう。
(1)ビジネスとITを一体とした新たな組織設計
理想のスクラムチームとは、顧客と直接対話をしながら、他のチームに依存せず、新たな顧客価値を生み出せるチームである。そのためチームには、ビジネスやITなど、さまざまな経験/スキルを持つメンバーが集まる必要がある。
顧客と直接には対峙しない社内のサポート業務についても、どのようにスクラムチームに対応すべきかも考慮しなければならない。
図1は、米Scrum Inc.が全社のスクラム導入を支援した米3M Health Information Systems(HIS)におけるスクラムチームの組織図である。
3M HISでは、バリューストリームごとに「スクラム・オブ・スクラム・オブ・スクラム」が設置され、エクゼクティブメタスクラム(EMS)が会社の戦略的ビジョンやサービスやプロジェクトの優先順位を決めている。
スクラム組織においては、広報、法務、人事の領域の仕事にも柔軟性や創造性が求められる。
3M HISの場合、広報、法務、人事といったサポート業務のチームもスクラムチームになっている。サポートチームのプロダクトオーナーが他のチームから受けた依頼がバックログになり、他のプロダクトチームと同様、スプリントの単位で社内顧客に向けた価値を生み出している。
3M HISの体制は、スクラム組織の最終形態に近い。これからスクラムを組織導入する企業は、3M HISのような全社展開を達成した際の組織図とは別に、まずは最初の部門にスクラムを導入した際の組織図を設計すると良いだろう。