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  • スクラムで創るチームワークが夢を叶える

イノベーションを起こせる組織の条件とは【第1回】

和田 圭介(Scrum Inc. Japan Senior Coach)
2019年9月9日

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタルを既存のビジネスに組み込むことでイノベーションを起こすための取り組みにほかならない。そのイノベーションを生み出すためのアジャイル(俊敏)な企画・開発手法に「スクラム」がある。だが、スクラムを導入したからといってイノベーションにつなげられない企業は多い。スクラムの価値を最大限に引き出し、イノベーションを次々と生み出せる組織とは、どうあるべきなのだろうか?

 米Amazon.com、独Bosch、米3M--。これら3社には共通点がある。アジャイル(俊敏)な企画・開発手法である「スクラム(Scrum)」を採り入れることで、競争力が高いビジネスを継続的に生み出し大きな成果を挙げていることだ。

日本の野中 郁次郎 氏らの論文がスクラムの原典

 スクラムは、デジタル時代のイノベーションの根源となるソフトウェアをアジャイルに開発するための手法の1つである。共通の目標に向けて、事業部門の担当者とエンジニアが一体になった小さなチームが、顧客のフィードバックを得ながら繰り返し開発するのが特徴だ。米国で1993年にJeff Sutherland博士が考案し、1995年にKen Schwaber氏とともに手法として形式化された。

 しかし、スクラムの原典は日本発である。日本におけるイノベーション/知識経営の第一人者である野中 郁次郎 氏と竹内 弘高 氏(共に現一橋大学名誉教授)が1986年に執筆した論文『新たな新製品開発競争(The New New Development Game)』がそれだ。

 同論文で両氏は、ホンダの”ワイガヤ”に代表されるような日本の製造業の製品企画・開発手法が柔軟で自由度が高いことを、チームが一丸になってプレーするラグビーのスクラムにたとえて紹介した。Sutherland博士らは、この論文に着想を得て、ソフトウェア開発手法としてのスクラムを開発したのだ。

 そして今、Amazonには3300のスクラムチームがあり、毎秒1つ以上という速さで新しいソフトウェア機能をリリースしている。顧客志向とオーナーシップを持ったAmazonのスクラムチームは、それぞれが特定の顧客価値を担当する。顧客データはリアルタイムに全社的に共有され、どのチームも自分のチームと周りのチームの状況を把握することで、チームは自律してサービス開発に取り組み、必要に応じてチーム間で助け合えるようになっている(図1)。

図1:小さなチームが連携して動くことがイノベーションにつながる

 スクラムの共同考案者であるSutheland博士は2011年、スクラムの導入・定着を支援する米Scrum Inc.を創業。近年は、スクラムを企業全体に取り入れることで、既存の階層型組織を小さなチームのネットワークで構成されるイノベーション組織に変革するトレーニングやコーチングに注力している。

 Scrum Inc.の支援を受け、スクラムに会社規模で取り組むのがBoschや3Mといった伝統的な製造業だ。両社はスクラムによって、自動運転システムや太陽光光発電ルーフなどの戦略的ビジネスを立ち上げ、大きな成果を挙げている。

日本企業の問題はオーバープランニングにあり

 イノベーションを生み出すアジャイルな企画・開発手法であるスクラムが今、日本でも急速に広まりつつある。それを支援するためにScrum Inc.は2019年1月、KDDIと、スクラム支援に早くから取り組んできた永和システムマネジメントと共に
Scrum Inc. Japanを設立もした。

 しかし日本企業はこれまで、スクラムを導入してもイノベーションにつなげられていない企業が少なくない。原典が日本発であるにもかかわらずだ。その答えを得るために筆者は2016年冬、永和システムマネジメントの平鍋 健児 社長ととともに、野中 一橋大名誉教授を訪れたことがある。

 企業経営に関する無数の図書に囲まれた一橋大学の構内で、野中 名誉教授はイノベーション組織の特徴を以下のように非常に簡潔に教えてくれた。

 「マーケット、テクノロジー、競合の動きが複雑化、高速化する現代のビジネスでは、将来を予測することは誰にでもできません。イノベーションを生み出す組織とは、マーケットに一番近いチームが、自ら判断して行動し、また、必要に応じて、チーム同士が自律的に連携できる組織です」