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リーダーシップとパイロットのスクラムチームを結成する【第7回】

和田 圭介(Scrum Inc. Japan Senior Coach)
2021年1月20日

EATの献身的サポートが成功の鍵

 パイロットチームの成功の鍵は、EATのパイロットチームに対する献身的なサポートが握っている。そのためには、パイロットチームの障害を正しく把握し、解決していかなければならない。そのためのツールの1つに「障害ボード」がある。

 写真1は、ある会社におけるEATの障害ボードの例だ。この会社では、どのリーダーが、どのレポートを担当していて、解決までにどの程度の時間が立っているのかを見える化している。

写真1:ある会社におけるEATの障害ボードの例

 EATは、チームの障害解決以外にも、チームへのスクラムのトレーニングやコーチング、顧客にフォーカスした組織構造への変革に責任を持つ。もし、EATが十分な時間を確保できなければ、これらの実行を委任するスクラム/アジャイルの専門家チーム「アジャイルプラクティス」のメンバーを選定する。

 社内にスクラム/アジャイルの専門家がいなければ、外部コーチを招くのもよいアイデアだ。ただし、外部コーチに完全に委託するのではなく、外部コーチには組織内部の専門家の育成を依頼し、将来的には内製化することが望ましい。

チームの方向性を合致させる「エグゼクティブメタスクラム(EMS)」

 EATの次にパイロットチームを募集する。パイロットチームには、他のシステムやチームに依存することなく、価値を直接、顧客にデリバリーできるチームになることを優先して選定しよう。実際のスクラム導入前には、EATから組織変革のビジョンやスクラム導入の意義を説明したうえで、対象チームの意思確認も実施しておきたい。

 EATとパイロットチームが決まれば、次に「エグゼクティブメタスクラム(EMS)」のメンバーを選定する。EMSは、チームのプロダクトオーナーと連携し、組織のビジョンや戦略と、各スクラムチームの方向性を合わせるのが役割だ。

 小さな組織であれば、EATとEMSのメンバーが同じ場合もある。大規模な組織では、EMSにビジネス部門のIT担当リーダーが参加するケースもある。

 パイロットチームとEMSの議論の場には、プロダクトの意思決定に必要なリーダーが出席するようにしたい。パイロットチームのプロダクトオーナーが、EMS以外の会議体で説明や承認などを実施しなくてもよいようにする必要があるからだ。

 図3に、EMSとスクラムチームのプロダクトオーナーが議論・報告する項目の推奨案を例示する。

図3:EMSとスクラムチームのプロダクトオーナーが議論・報告する項目の推奨案

 EMSとチームのプロダクトオーナーは、最低でもスプリントに1度は、組織のビジョンとチームの成果の方向性が合っているか、今後どのようにプロダクトを発展させていくかを議論する場を持つ。組織運営のためには、どのような議論や報告が必要か、予め月次や四半期ごと、年次でのコミュニケーション計画を策定しておく。

 実際のコミュニケーションの頻度や内容は、組織のコンテキストや過去に実施したEMSの学びから適宜、改善していく。

チームのメンバー全員で実践的トレーニングを受ける

 リーダーシップのスクラムチームとパイロットのスクラムチームが選定できれば次は、メンバー全員がアジャイルプラクティスによるスクラムの実践的なトレーニングを受ける。自社にトレーニングのノウハウがなければ、外部のトレーニング会社の協力を得てトレーニングを実施する。

 トレーニングを通じて、リーダーシップとパイロットチームのメンバーは、スクラムにおける役割やイベントの意味合い、効果的なスクラム運営方法を学び、今後のスクラム組織の運営に必要な共通理解を構築する。

 トレーニングが終われば、パイロットのスクラムチームのバックログ(ビジネス価値に基づいて優先順位がつけられたチームのやるべき仕事のリスト)づくりのワークショップを実施する。アジャイルプラクティスのコーチングのもと、2日間程度をかけて、チームで以下のような項目を実施する。

・プロダクトビジョンの策定
・ペルソナの設定
・ユーザーストーリーマッピングの実施
・ユーザーストーリー以外のバックログの洗い出し(アーキテクチャー検討、インフラ設定、新しいスキルの獲得など)
・チームの品質基準(完成の定義)の決定
・バックログの見積もり
・プロダクトゴールの策定

 次回は、スクラムチームのバックログづくりの具体的な方法について解説したい。

和田 圭介(わだ・けいすけ)

Scrum Inc. Japan Senior Coach。大学卒業後、KDDIにおけるIoTビジネス・クラウドビジネスの立ち上げ、トヨタ自動車への出向などを経て、2019年4月より現職。KDDIにおけるスクラム導入、プロダクトオーナーとしての経験を生かし、主に大企業におけるスクラム導入を支援。スクラムの普及を通じて、日本中の働く人々が幸せになり、日本から新たなイノベーションが次々と生み出されるようになることを目指している。