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  • “稼ぐ力”に向けた中小企業の共創とデジタル技術の使い方

効率化から高付加価値につながるデジタル活用を目指せ【第1回】

事業の高付加価値化のための高度専門家派遣の取り組みより

小川 拓真(関東経済産業局 地域経済部 次世代・情報産業課 係長)
2019年9月27日

支援策が人材のミスマッチにより高度化につながらない

 ただ残念ながら、地域におけるデジタル化の支援事例では、設備の稼働率の見える化など効率化のステージに留まっているのが現状で、新しいビジネスにつながる高付加価値化までは進んでいない(図3)。中には、企業の一部業務に部分的に導入されているだけで、生産性に資する効果を十分に得られていないケースもある。

図3:中小企業におけるデジタル技術の導入状況

 その背景には、日本企業においては依然として、デジタル技術について正しく理解できていないケースが多く、それらを活用できる人材やツールとのミスマッチが発生していることがある。

 利用企業側にデジタル技術に関する知識がない状態でデジタル化を図ろうとしても、自社の課題すら上手く整理できないし、外部に支援を求めるにしても必要な人材のレベルが分からない。そうしたままベンダー企業と相談を始めてしまうため、自身が描いていた理想と現実のギャップに挫折してしまうという結果に陥りやすい。

 冒頭で指摘したように、これからのデジタル技術活用では、新たな売り上げを創出できる新ビジネスを構築するための高付加価値化に取り組む必要がある。
そのためは、中小企業にあっても、高度な知見を持つ外部の専門人材とのオープンイノベーション(共創)にどう取り組むかが課題になってくる。デジタル技術の高付加価値化に自社だけで取り組むことは非常にハードルが高く、外部の専門人材の活用が必要不可欠になるからだ。

 ただ、高度化のための専門ノウハウを持った人材は、国内外を問わず不足しており、結果として取り組みへの対応が遅れている。そうした中でも、新たな価値創出に成功した事例も登場している。成功事例では、大学や地域支援機関のコーディネーター人材や、大手機械装置メーカーあるいは外資系のプラットフォーマーなどの企業人材、先進的技術を有するベンチャー企業の高度人材などとの連携を図っている。

 高付加価値化に成功した企業からは、多様な発展モデルも生まれている。1つは、自社の効率化のために開発したノウハウを他の中小企業に販売する「横展開モデル」だ。ほかにも、自社の競争力をより高めるための「高度利用モデル」や、自社の強みを活かして新たなサービスを提供する「起業モデル」などがある。

高度人材との共創で成長モデルの実現を促す

 そこで関東経済産局は2019度、「地域中核企業ローカルイノベーション支援事業」の中で、事業の高付加価値化に取り組む意欲のある事業者に対し、個別課題に対応できる専門家を集めたチームを結成して派遣し、伴走的に支援する取り組みに着手した(図4)。

図4:中小企業のデジタル化に向け高度専門家が支援

 専門家派遣事業を通じては、対象企業の高付加価値化の実現に加えて、その経過を整理することで2つの成果を得たいと考えている。

 1つは、本事業によって高付加価値化のモデルケースを作り共有することである。モデルケースでは、企業がどのように事業を進めていったのか、どんな社内人材を育成するために投資をしたのか、専門家とどんな意見交換を行ったのか、社内の意識がどう変化したのかなどのすべてを見える化したい。

 従来の成功事例では、成功した結果だけがクローズアップされ、業種や分野が違うと中小企業にとっても参考にできるケースが乏しかった。今回は、成功事例を細分化し見える化することで、漠然としかイメージできなかったデジタル化において、なすべきことを定量的にとらえられる考えている。

 もう1つは、社内のITリテラシー向上を目的とした自己診断リストの作成だ。中小企業においては、自社のデジタル技術の活用状況について、自社がどの位置にいるのかを正確に把握できておらず、取り組むべきことが見えていない企業が少なくない。現状整理ができていない状況で地域IoT推進ラボやベンダー企業と相談しても本質的な課題解決につながらない可能性が非常に高い。

 それだけに今回は、企業と専門家による課題抽出から、解決策の検討、実施計画の策定、実施までの一連の流れを参考に、自社のポジションを測れる自己診断リストを作成し、中小企業が置かれる状況を変えていく。自己診断リストは、当局のHPへの掲載を考えている。

支援対象企業を絞り込み青写真を完成させる

 今回の専門家派遣事業では、支援対象企業を絞り込む代わりに、専門家を複数回派遣し、高付加価値化のための青写真を完成させる。青写真が描けたプロジェクトについては次年度以降、サポイン事業などの予算を使いながら高付加価値化に向けて具体的な取り組みを進めていく予定だ。これらの成果は、2019年度末頃に開催を予定している当局のシンポジウムでの発表を検討している。

 次回からは、既に高付加価値化につながるデジタル技術活用に取り組んでいる企業と、本事業を活用した企業の事例を紹介していく。

小川 拓真(おがわ・たくま)

関東経済産業局 地域経済部 次世代・情報産業課 係長