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ヒバラコーポレーション、職人技依存の金属塗装業界にデジタルで新風を【高付加価値化編】

実績ベースの知見を他社支援サービスに転用

DIGITAL X 編集部
2020年3月18日
ヒバラコーポレーションのデジタル化を支える主要メンバー。左から2人目が小田倉 久視 社長

ヒバラコーポレーション(茨城県東海村)は、金属塗装/工業塗装を手掛ける従業員40人ほどの企業である。ベテランの技能や知見を可視化・再利用すべく塗装工程のデータを取得し“説得力”を高めてきた。そこにビジネス価値を見出し、他社の塗装工場を支援するサービスの提供に乗り出した。【高付加価値化編】では、その具体例として「アームロボットを活用した塗装支援」「センサーデータを活用した前処理支援」を紹介する。

 金属塗装のビジネス拡大に向けては“距離”という制約条件がある。塗装加工技術がいくら優れていても、遠方から受注すると輸送費が嵩みコスト競争力が失われてしまうからだ。小田倉久視社長は「当社が拠点を置く常陸那珂地区で考えれば、川崎や千葉あたりまでが限界」と話す。

 この物理的な距離の問題をデジタル化で何とか解決できないか--。そのためにヒバラコーポレーションが取り組んでいるのが、ネットワークを介してヒバラが持つ各種ノウハウを遠隔地の塗装工程部門に提供することである。

 具体的には、遠隔地の塗装工程に塗装ロボットを設置し、ヒバラが持つ塗装実績データに基づいてリモート制御する。熟練者がいる工程に対しては、ヒバラ同様に、その熟練者のスキルをデータ化し形式知として伝承する仕組みの構築も支援する。塗装の前処理に対してもデータに基づくノウハウを提供する。

 その実現に向け、自社の生産管理システムである「HIPAX(ハイパックス)1」をベースにした「HIPAX2」を茨城大学と、ひたちなかテクノセンターと連携し開発を進めてきた。

 HIPAX2を介してヒバラは、これまでに蓄えてきた金属塗装に関わる各種ノウハウを付加価値として市場に提供する。そこでのヒバラは、「人手不足やノウハウ不足などに悩む塗装工程を持つ事業者へのコンサルタント会社になる」(小田倉社長)わけだ。

熟練の動きをデジタルコピーしロボットで再現

 ネットワークを介したコンサルティングを実現するための中核技術に位置付けるのが「ロボット塗装」と「前処理センシング」である。

 ロボット塗装は、アーム型ロボットを活用して熟練者の塗装ノウハウを継承し、遠隔地での再現を可能にする仕組みだ。ベテランの塗装職人のスキルは、「スプレーガンの操作からして若手とは歴然とした差がある」(小田倉社長)。その高品質な塗装を短時間で仕上げられる無駄のない動きをロボットで再現する。

 一般に産業用ロボットにベテランの操作を真似させる際には、「ティーチペンダント」と呼ぶ機器を使用する。だが小田倉社長によれば「ティーチペンダント使ったロボット活用は時間も手間もかかり過ぎるという難点がある」。

 そこでヒバラでは、ベテランの動きを直接データに置き換え、そのデータをアーム型ロボットに転送する方法を検討した。ベテランの動きをデータを介して転用できれば、「多種多様な塗装案件(仕様や要件)に対処できる可能性が拓ける」(小田倉社長)からだ。試行錯誤により行き着いたのが次のような方法である。

 まず、ベテラン職人に対象物や要件に合わせた塗装を「マスターロボット」を使って平常時と同様に作業してもらう(写真1)。マスターロボットは、そのアーム部分が人の手や腕の動きと連動する仕掛けになっている。これにより、腕の三次元的な動きやスプレーガンなど器具の操作を実作業からデータに落とし込む。そのデータは、「空間的な位置やスイッチのオン/オフを表すテキストデータであり、作業時間が何分にも及んでも容量はさほど肥大化しない」(小田倉社長)という。

写真1:「マスターロボット」を使ったベテランの作業データ取得のイメージ

 マスターロボットで記録したデータは、ベテラン塗装職人の“デジタルコピー”である(写真2)。このデジタルコピーをアーム型ロボットに流し込み、ベテランの動きをそっくりそのままの再現できることにメドをつけた。データを流し込むためのプログラムも独自に開発し、ビジネスモデル特許も申請した。小田倉社長は「まだ改善の余地はあるものの実用域には達している」と胸を張る。

写真2:マスターロボットで記録したベテラン塗装職人の“デジタルコピー”の例