• Column
  • “稼ぐ力”に向けた中小企業の共創とデジタル技術の使い方

効率化から高付加価値につながるデジタル活用を目指せ【第1回】

事業の高付加価値化のための高度専門家派遣の取り組みより

小川 拓真(関東経済産業局 地域経済部 次世代・情報産業課 係長)
2019年9月27日

日本企業の成長においては、事業の高付加価値化が不可欠である。その実現には、AI(人工知能)やIoT(物のインターネット)、ロボットといったデジタル技術を駆使した経営戦略を実行する必要がある。その支援策として関東経済産業局は2019年度から、事業の高付加価値化のための高度専門家派遣に取り組んでいる。今回は、日本の中小企業が抱える課題の整理と、高度専門家派遣によって中小企業のデジタル技術活用をどう変えたいかについて説明する。

 現在は、コンピュータによる第3次産業革命に次ぐ、第4次産業革命の時代だとされる。そのドライバーはAI(人工知能)やIoT(物のインターネット)、ロボットといったデジタル技術である。そんな時代にあって欧米企業はデジタル技術を駆使し売上拡大を図る“高付加価値化の戦い”に移行している。

 一方で日本企業は、新たな価値やビジネスモデルを生み出せず、平成の30年間で“稼ぐ力”は低迷し、高付加価値化の競争に出遅れている(図1)。デジタル技術への関心は高く、導入例も少なくないものの、売り上げが増大するような高付加価値化への取り組みは、なかなか進んでいないのが実状だ。

図1:先進国の企業におけるマークアップ率の推移

IT 導入補助金や地域IoT推進ラボなどで地場の産業を支援

 日本企業が高付加価値を実現するためには、(1)日本の強みである良質な製造現場のデータや健康関連データ、走行データなどの現実世界から得られる「リアルデータ」と、(2)コアとなる部材/素材の技術力、(3)社会課題の先進性を組み合わせることで新しいビジネスモデルや新たなマーケットをデザインし、これまでの成長戦略とは非連続なイノベーションを生み出すことが必要である。

 そのためには、AI/IoT/ロボットなどのデジタル技術を使いこなせるだけのスキルの普及促進を図ることが重要だ。同時に、創造性、感性、芸術性の能力やスキルを磨いた高スキル人材も必要になる。彼らが企業の現場に立ち、デジタル技術を生かした稼げるモデルを見出していかねばならない(図2)。

図2:デジタル技術を駆使した成長モデルの社会実装が重要に

 デジタル技術の活用に向けては、経済産業省がIT導入補助金などの施策によって後押ししてきた。各地域の取り組みも進展し、デジタル技術を活用した生産ラインの見える化や効率化の動きが始まっている。近年は人手不足から、従来の自動車を中心とする製造業だけでなく、食品、化粧品、医薬品の三品産業などにおいてもAI/IoT/ロボットの活用ニーズが高まっている。

 関東経済産業局では、デジタル技術の活用による中小企業の生産性向上を支援するため、地域と連携した「地方版IoT推進ラボ」(全国101地域のうち関東局管内は21地域)をはじめとするプラットフォームを整備することで、地域特性に応じた支援体制を構築してきた(関連コラム『地方版IoT推進ラボが取り組む課題解決プロジェクト』)。

 地方版IoT推進ラボでは、経産省と情報処理推進機構(IPA)のバックアップを受け、導入事例やツールなどを紹介するセミナーの開催や実証実験、ビジネスマッチング、国・自治体による補助金などの施策により、IoTなどを活用した地域課題の解決や新事業の創出を目指している。

 特にIPAとの連携では、先進的な事例を共有・展開する地域IoT推進ラボ担当者の連携会議やシンポジウムを開催し、各ラボの取組の加速化を図っている。