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  • 課題解決に向けAIを本質的に理解する

ディープラーニングがもたらしたAIの新たな価値【第1回】

ミン・スン(AppierチーフAIサイエンティスト)
2020年1月8日

AI(人工知能)への期待が高まる一方で、導入企業の一部からは失望の声も聞こえてくる。今回はAIが持つ本質的な価値を理解するために、AIの歴史を振り返り、技術の進展を見てみる。過去にAIが辿ってきた興隆と没落の流れと、「第3次AIブーム」と呼ばれる現代のAIの隆盛を比較することで、過去のAIブームとの違いを確認したい。

 AI(人工知能)は過去、2度のブームを迎えたと言われている。「第1次AIブーム」は1950年代から60年代にかけて起こった、コンピューターによる推論と探索のプログラムの時代を指す。「第2次AIブーム」は、1980年代の家庭用コンピューターの普及とともに幕を開けた。

第1次AIブーム:シンプルなゲーム攻略で終わる

 第1次AIブームが始まった1950年代といえば、第2次世界大戦後の経済的復興が本格的に進み始めた時代だ。コンピューターの利用は研究機関や一部企業に限定されていた。当時のコンピューターによる計算量は、現代と比べるべくもないとはいえ、人間を圧倒する計算量は大いに研究者の想像力を刺激した。

 当時の研究者たちはコンピューターが持つ可能性を高く評価した。1960年代前半には、「20年後には、人ができるほとんどの作業をAIが代替する」と公言する研究者が後を絶たなかったという。

 しかし、第1次AIブームから60年が過ぎようとしている現在ですら、AIが代替している仕事は、全体のごくわずかに過ぎない。第1次AIブームの時代に実現できたことといえば、迷路の探索のように、明確な答えが存在する「トイプロブレム」と呼ばれるシンプルなゲームの攻略だけである。

 AIによる言語の翻訳も研究が進められてはいた。それも当時のコンピューターの計算量をはるかに凌駕するスペックが必要だということがわかり、政府や民間企業の間に失望が広がったことで第一次AIブームは終焉。1970年代はAIにとっての“冬の時代”といえる厳しい状況が続いた。

第2次AIブーム:ルールベースのエキスパートシステムは成功

 第1次AIブームでは、人間の作業すべてを代替できるような汎用的なAIが期待されていた。これに対し1980年代に始まった第2次AIブームでは、専門性が高い医療や法律など個別分野に特化した「エキスパートシステム」と呼ばれるAIの開発研究が進められた。

 いくつかの研究は、成功と呼んでも差し支えない成果を生み出した。しかし、エキスパートシステムは“人工無能”つまりルールベースのAIだったため、膨大な量のデータを人手でインプットし、結果ごとのアウトプットも事前に決めておく必要があった。

 そのため、作業コストが高すぎることや、例外処理ができないことが欠点として浮き彫りになった。研究成果としては高い評価を得ることに成功したエキスパートシステムも、コスト高がハードルになりビジネスに活用できなかった。社会浸透が進まず、AIは再び冬の時代を迎えることになる。