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店頭やモバイルで生活シーンに浸透する画像認識技術【第2回】

ミン・スン(AppierチーフAIサイエンティスト)
2020年2月5日

第1回では、活発化するAI(人工知能)活用の波がどのように形成されていったのかを説明した。今回は、現在のAI活用を牽引する画像認識技術を取り上げる。より身近に感じられるように、小売業の商業施設での活用と、モバイルデバイスを介した活用に焦点を当て、画像認識技術がいかに生活やビジネスに浸透し始めているのかを説明する。

 画像認識技術は近年、AI(人工知能)関連技術群の中で注目を集めている分野の1つである。「コンピューターの目」とも呼ばれている。

 前回、画像認識分野では2012年に飛躍的な精度向上が起こったと説明した。研究者の間では2012年の技術的ブレークスルーが、コンピューターサイエンス分野における“カンブリア爆発”、すなわち一大変革期だと考えられている。画像認識分野における技術的ブレークスルーを境に、第3次AIブームが到来し、多種多様なAIが誕生した。

 日々増え続けるAI活用例の中で、とりわけ存在感を放っているのが「人」の認識に特化した活用例だ。以下では小売業の商業施設における活用と、モバイルデバイスを介した活用事例に焦点を当てて考察する。

無人店舗の実現などに期待を寄せる商業施設

 商業施設内における画像認識技術には大きく(1)業務効率化・省力化への活用、(2)防犯機能の向上、(3)店舗内のマーケティング活動の3つのトレンドがある。

トレンド1:業務効率化・省力化への活用

 今、世界中で話題になっている無人店舗が、この枠組みに入る。無人店舗は先進国を中心に深刻化しつつある人材不足を解決するための一手として実証実験が進んでいる。

 少子高齢化がどの国よりも進んでいる日本は、人材不足が最も深刻な国の1つだ。特に地方都市では労働人口の減少が顕著で、24時間営業のコンビニエンスストアや飲食店などは営業に支障をきたすほど人材獲得に苦労しているのが現状だ。これまでの利便性を損なうことなく店舗を無人化できれば、過疎化や人材不足などの理由で閉店を覚悟した小売店でも営業を存続できる可能性が生まれる。

 無人店舗を実現するには、複数のカメラを用いた画像認識により、店舗内における顧客の動きから、どの商品を手に取り最終的に何を購入したのかを判定する仕組みを作る必要がある。

 無人店舗として最も有名な「Amazon Go」は、店舗に入る段階でユーザー認証を済ませ、店舗から出る際に自動で決済する仕組みを採用している。入場から支払を終えるまでをノンストップで進められることはユーザー体験の向上にもつながるため導入効果は大きい。

 しかし、この仕組みには、膨大な画像処理を前提にしており、現時点では導入の費用対効果が大きいとは言い切れない。将来的に、より効率的な計算処理が可能になれば、必ずしも同じ仕組みを採用する必要はないが、いずれ同様の無人店舗が広がっていくと予想される。

 完全な無人店舗は、まだ技術的にも費用的にも難しい。だが、店舗内の一部業務の自動化は現時点でも、小型店舗でも実現できる。たとえば、画像認識による商品の自動読み取りでレジ作業を省力化する取り組みは、さまざまな国で導入が始まっており、高い導入効果を叩き出しているケースも増えている。