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マーケティング分野に広がるAI活用【第4回】

ミン・スン(AppierチーフAIサイエンティスト)
2020年4月8日

AI(人工知能)、中でも画像認識技術が、いかに生活やビジネスに浸透し始めているのかについて前々回は小売業を中心に、前々回は医療分野を中心に説明した。今回は、さまざまなAI関連技術が積極的に導入されているマーケティング領域における活用を見ていく。マーケティング領域の取り組みは他産業のAI活用にも参考になるはずだ。

 マーケティング分野においてAI(人工知能)の適用が進んでいるのがEC(ElectronicCommerce:電子商取引)サイトや広告配信である。たとえばECサイトでは、不特定多数の利用者の行動データをビッグデータとして、「商品Aを購入したユーザーは商品Bも合わせて購入する傾向にある」という分析結果を算出し、商品Aを買い物かごに入れた利用者の画面に商品Bを“お薦め商品”として表示する。

 一方、広告配信は、利用者の検索ログやSNS(Social Networking Service)などの行動データから、その利用者が興味を持ちそうな広告を算出し表示する仕組みになっている。

最適化に向けては十分なデータ量が必要

 ここでのAIは「最適化」を図るための技術として使われる。最適化技術とは、目的に合わせて特定の値を最大化または最小化する技術を指す。

 たとえば、旅行中の移動を最低限に抑えるには、各観光名所の位置を把握し、各観光名所を最短で訪問できるルートを設定する必要がある。その作業は従来、人が地図で観光名所を調べ手作業でルートを割り出していた。最適化技術を用いれば数秒で最短ルートが見つけられる。

 マーケティング分野における「最適化技術」の活用は利用者のアクション(行動)を喚起することに重きを置いてきた。それが近年は、その応用範囲が広がり続けている。

 具体的には、道路の混雑状況や目的地までの距離などを元にした廃品回収における最適ルートの算出、ホテルや航空券などにおける予約状況や過去の価格推移を元にした自動価格設定(ダイナミックプライシング)などだ。中国では、信号が変わるタイミングを最適化する取り組みが進んでいる。アイデア次第で活用の幅はより広がるだろう。

 大きな可能性を持つ最適化技術だが現時点では難点もある。最適化AIの構築に必要なデータ量だ。

 最適化のためのAIは、入力されたデータの中から最適解を導き出すモデルに基づいており、データ量に応じて導き出される解答の質が変動する。ビジネスにおいて有用なモデルは、あらゆる状況に臨機応変に対応できるモデルであるはずだ。だが少量のデータからは限られた状況にしか対応できない。

 さらに、人間の行動は不特定多数の要素から影響を受けるため、特定の要素に関する情報の“量”だけでなく情報の“種類”も増やす必要がある。保有データが少ない企業が独自に最適化のためのAIを開発することはハードルが高いといえる。既存のソリューション活用などが現実的だろう。

自然言語処理で感情も分析可能に

 最適化技術にはビッグデータの分析による統計的な手法が用いられている。最近は、その他の手法を用いたAI関連技術がマーケティング領域には増えている。その1つが、自然言語処理を用いたユーザー分析である。

 ユーザーアンケートの自由記入欄から感情を分析するAIが、その一例だ。感情分析AIは、テキストデータからユーザーが質問事項に関して「ポジティブな感情を持っている」のか、それとも「ネガティブな感情を持っている」のかを予測し、アンケート全体の分析を支援する。

 アンケートは、企業のマーケティング担当者にとって、ユーザーの生の声を収集する絶好のツールだ。しかし、アンケート回答の自由記入欄の内容は、最も信頼できる情報であると同時に、最も分析に時間がかかる面倒な情報でもある。

 さらに、分析内容は担当者の判断に基づく恣意的なものになりやすいため、ユーザーの回答を有効活用できるかどうかは担当者の能力に依存しやすいという問題点がある。

 そこで感情分析AIを使って自由記入欄を分析すれば、一定の判断基準に基づく情報が得られる。アンケート分析にかかる時間的コストが大幅に削減されるため、マーケティング担当者は思考に割く時間を増やせるというメリットも産まれる。