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  • ドローンの業務活用を考えるための基礎知識

ドローンの“苦手”を理解し新たな適用範囲を考える【第2回】

吉井 太郎(センシンロボティクス 執行役員 エバンジェリスト 兼 サービス企画部長)
2020年2月21日

苦手3:対象物に触れる

 ドローンの苦手作業の3つめは「触れる」です。飛行中のドローンが対象物に直接接触する作業のことです。飛びながら物をつかむ作業や、点検作業において点検対象をハンマーなどで叩き、その打音で異常を見つける打音検査などが該当します。

 空中に静止するホバリングができない固定翼機は論外ですが、マルチコプター機にとっても飛行中の接触作業は非常に難易度が高いものです。対象に触れるためには、かなり接近する必要があり、その際に回転翼が接触してしまえば、たちまち墜落事故につながります。

 直接接触しなくても、ドローンのプロペラが巻き起こす風は、壁や床で跳ね返り複雑な気流を発生させます。その気流によって制御不能になる事故も珍しくありません。ドローンの安全運用において「周囲の人やモノとは十分な離隔を取る」という大原則がある以上、それと矛盾する接触作業はドローンにとって苦手な作業なのです。

 ただし、接触を前提としたドローンも存在します。機体に装着した車輪や機体全体を覆う球殻を意識的に接触させることで、超近接点検や打音検査を可能にしています(写真3)。構造が特殊なため飛行時間が短かったり、撮影画像に球殻が映り込んだりと使いどころが難しい機体ではありますが、コロンブスの卵的な発想は見事です。

写真3:PRODRONE製の壁面点検ドローン「PD6-CI-L」(左)と、東北大学の球殻ドローン。いずれも壁に接触しながら飛行できる

 ここまでドローンの苦手な作業について紹介してきました。ただ、気付かれた方もおられると思いますが、ドローンが苦手とする領域も、機体やソフトウェアの進化、法規制の緩和、新技術の導入などで、ドローンが活躍できる領域になってきています。衛星を使った位置情報を特定できない非GPS環境や狭隘部での活用は数年前までは苦手領域の代表格でしたが、今やドローン利活用の一分野として確立されています(写真4)。

写真4:非GPS環境の自律航行を実現したACSL製の「PF-MINI」(左)と、AI(人工知能)を搭載しぶつからないSkydio製の「Skydio 2」

 ドローンの業務利用において、今回取り上げた苦手領域での利用を考えている場合は、少し注意が必要です。とはいえ頭から「やめておけ!」というつもりはありません。むしろ日進月歩のドローン技術をキャッチアップし、世界で初めての試みを、国内のドローンベンダーやサービサーと共に創り上げていくのはいかがでしょうか?日本発のユニークな技術/サービスが世界に向けて飛び立つかもしれません。

 次回は、ドローンをより正しく理解するために、ドローンを活用すれば何ができるのか、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるにあたってドローンが必要な理由について解説します。

吉井 太郎(よしい・たろう)

センシンロボティクス 執行役員 エバンジェリスト 兼 サービス企画部長。ソニー、ソニーコミュニケーションネットワーク、IMJモバイルを経て、2008年より日本マイクロソフトにてゲーム機「Xbox」のマーケティングを担当。2015年よりグリーのヘルスケア領域における新規事業のサービス企画マネージャーを担当した。2016年5月より現職。