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  • ドローンの業務活用を考えるための基礎知識

「点検」に見るドローン活用が業務に与える“3S改革”【第3回】

吉井 太郎(センシンロボティクス 執行役員 エバンジェリスト 兼 サービス企画部長)
2020年3月19日

 最後は、恐らくもっとも重要であるにもかかわらず、多くのケースでおざなりにされがちな「運用面の実現性」に関する検証です。簡単に言うと「実際の業務における使い勝手はどうか」ということです。

 ドローンによる点検作業は、従来手法を上回る精度で実施でき、大きなコスト削減効果が見込まれます。にもかかわらず、いざ導入してみると現場作業員が使いたがらないかもしれません。そんな場合は運用の検証が、きちんとできていないことが原因である可能性が高いのです。次のようなケースです。

・実験時には完璧に動作した機器が、扱いが難しすぎて作業時には動作不良を連発する
・点検対象の大部分において離着陸のための場所を確保しにくく、安全確保に多大な調整コストがかかる
・実験時のデータから計算した機体やバッテリーの数では足りず、追加導入したためにコストメリットが大幅に減少した

 技術的・ビジネス的な実現性を十分に検証すれば避けられる項目もありますが、実際の運用を想定したヒト・モノ・カネの検証が重要であることが、お分かりいただけるかと思います。

 これらの検証に共通して大切なのが、実際の点検業務とドローンの、どちらにも精通した人またはチームが担当することです。ドローンサービスベンダーと共同で検証する場合は、自社の担当者がドローンについて学ぶのはもちろん、ベンダーに対しては業務内容を理解するための機会を十分に設ける必要があります。

(3)導入後の業務変化=3つの「S」

 ドローンの価値を理解し、十分な検証を経て、業務実装が完了しました。その結果、業務はどう変化するのでしょうか。効果についてはビジネス実現性の検証などで考えられてはいるはずですが、ドローンによる業務には、それを超える変化をもたらす力があるのです。筆者は、それを「3つのS」と呼んでいます。

Scale(規模) :空から俯瞰した情報を得られるドローンは、地上で人力や、その他の手法を用いるのとは次元が異なる規模の業務を実現します。

 太陽光発電所の例であれば、いわゆるメガソーラーと呼ばれる大規模発電所では、数千から数万基の太陽光パネルが存在します。この規模のパネルをすべて点検することは、コスト的または人的リソース的に難しいと考えられていますが、ドローンであれば十分に実現可能です。

Speed(速度) :作業自体の高速化はもちろん、それによって実現される点検サイクルの高速化も含みます。

 たとえば、工場の屋根を点検する場合、職人が屋根に上がり、徒歩で点検する場合、1日に数千平方メートル程度の範囲が限界です。これがドローンなら、その10倍の範囲を2~30分で撮影できます。これほどのドラスティックなスピードアップは、点検業務そのものを変革する可能性を秘めています。

 これまで数年に1回だった点検頻度を、月単位・週単位にまで向上させる。それにより、損傷箇所を見つけては直すというイタチごっこから、壊れる前に直す予防保全に変えられれば、単なる作業コストの削減ではなく、施設管理全体の改善にもつなげられます。

Safety(安全性) :安全性は何よりも大切です。日々業務の現場を担当される方にとって、作業員の事故は何より避けねばならないことです。特にドローンが得意とする高所や危険地域での作業は、一歩間違えば命にかかわる事故が起こりえます。もし、これまでに作業員の安全に関わる重大な事故が発生した業務を、ドローンで代替できるなら、すぐにでも検討を始めるべきです。

 人の安全に関わるメリットを上回るデメリットは稀です。これは単なる綺麗事ではなく、人の安全を担保するのは非常にコストがかかるうえ、安全性の向上を理由に業務効率が下がっているケースは非常に多いのです。もちろん企業が人の安全性向上に費やす努力には最大限の敬意を感じます。ですがドローンの活用により、人に被害が及ぶ事故の可能性をゼロにできるのなら、ドローンに関わる者として、こんなに嬉しいことはありません。

 今回は、ドローンが得意とする「点検」業務を例に、ドローンの活用と、それがもたらす変化について解説しました。もちろん点検以外にもドローンの活用が期待される分野は数多くあります。現在は苦手な分野でも、今後の技術革新で活用可能な分野は広がっていくでしょう。

 その場合も、ドローンがもたらす価値、導入に向けた検証、そして業務にもたらす変革は、点検と同様のものが望めることでしょう。点検業務以外の活用を検討する際も、本稿を是非、参考にしてください。

 次回は、ドローンで取得したデータの活用方法について解説します。

吉井 太郎(よしい・たろう)

センシンロボティクス 執行役員 エバンジェリスト 兼 サービス企画部長。ソニー、ソニーコミュニケーションネットワーク、IMJモバイルを経て、2008年より日本マイクロソフトにてゲーム機「Xbox」のマーケティングを担当。2015年よりグリーのヘルスケア領域における新規事業のサービス企画マネージャーを担当した。2016年5月より現職。