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ロボットによる自動化の進化と新産業への適応【第2回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2020年8月3日

前回、「ロボットとは何なのか?」そして「ロボットはどのような価値を提供しているのか?」について紹介した。3つの価値として(1)自動化による生産性向上、(2)遠隔化による安全性向上、(3)自己拡張による幸福度向上を示し、現在も今後もロボットの本流は(1)自動化による生産性向上であろうとも述べた。今回は、その本流である自動化による生産性向上が、「これまでどのように進化し、今後どのような方向に向かっていくのか?」を考えてみたい。

 これまでのロボットは主に、産業用ロボットとして登場し発展してきた。最初の産業用ロボットは、1960年にエンゲルバーガー氏が率いる米ユニメーションが実用化した「ユニメート」だと言われている。

日本は産業用ロボットで世界一の生産国

 産業用ロボットは、高度経済成長期となった1980年頃から本格的に活用が進み始め、90年代には日本メーカーの販売台数が世界の約90%を占めるなど日本の独壇場ともいえる市場になった。

 その後も図1に示すように、リーマンショックなどの景気の変動は受けながらも、基本的には右肩上がりで生産台数は増加している。特に近年は、2013年から2017年の5年間で2倍になるなど、販売台数は急激に伸びている。

図1:世界の産業用ロボットの出荷台数の推移

 2010年以降は海外メーカー製ロボットの割合が急激に増えているものの、2018年時点でも年間販売台数約38万台のうち21万台以上が日本メーカー製である。日本は世界一のロボット生産国である。

 この産業用ロボットを最も使っているのは、今も昔も自動車産業だ。2年に1度開催される国際ロボット展では、大型のロボットアームが自動車を振り回すデモシーンを見た方もおられれば、EV(電気自動車)メーカー米テスラの工場においてファナック製などの赤いロボットが製造ラインに大量に並んでいる写真を記憶している方もいるだろう(図2)。

図2:自動車の生産ラインで稼働する産業用ロボット

 自動車の組み立てシーンや溶接シーンでは、本当に多くの産業用ロボットが使われている。少し言い過ぎかもしれないが、自動車産業の発展は産業用ロボットの活用により支えられてきたのかもしれない。逆に、産業用ロボットの発展は、自動車産業抜きには語れないことは間違いがない。

 自動車業界のユーザーは、少しでも製造コストを下げる、あるいは、より安定的に稼働させるというニーズを持ち、ロボットの開発にも投資してきた。つまり産業用ロボットは、ユーザーにより性能を徹底的に引き出され、使い倒されたからこそ、現状の高いパフォーマンスを安定して実現できるようになったのである。

 近年は、自動車産業以外の電機・エレクトロニクス産業などでも積極的にロボットは利用されている。現在の稼働台数は年間約12万台で、自動車産業と同程度になっている。

 一方で、人手不足を背景に多くの産業がロボットの活用を望んでいるにもかかわらず、十分に導入が進んでいないという実状もある。導入が進まない理由はいくつかあるが、費用対効果がなかなか合わないというところに集約されるのではないかと思う。

 現状の多くのケースでは、産業用ロボットを1台のみ導入して生産性が劇的に改善するということは稀である。工程をピンポイントで自動化したとしても、他の工程でボトルネックが発生し、トータルの生産性には効いてこない可能性があるためだ。

 生産性を高めようとすれば、ロボットを複数台使いながら、ロボット以外の生産設備も活用し、ライン全体を考える必要がある。そのためには単にロボットを買っただけではダメで、ロボットやラインをシステムとしてインテグレートする会社にも協力を仰ぐ必要が出てくる。

 結果的に必要な投資が膨らむ。投資回収期間は長くて3年、短ければ1年とも言われ始めている現場では、なかなか費用対効果が出せない。そもそも、このような大型投資ができる業界や会社が少ない状況になってしまっているのではないだろうか。