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工場・倉庫から手術室や家庭へと広がるロボットビジネス【第4回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2020年10月5日

第1回から第3回では、「ロボットとは何なのか?」「ロボットには、どのような価値があるのか?」「これまで、どのような取り組みがなされてきたのか?」について、歴史も振り返りながら紹介してきた。今回からは、ロボットを使ったビジネスの状況について、事例も交えながら、現状と課題を明らかにしていきたい。

 ロボットは今後、さまざまなビジネスへの展開が期待されている。今回は、現状における代表的なロボットビジネスを見てみたい。

産業用ロボは単体からスマート工場を目指す

 ロボットビジネスにおいて現在、最も大きな市場は、工場向けの産業用ロボットアームである(第2回参照)。毎年、約40万台が出荷され、年率約15%で増加し続けている。

 海外の大手企業には、スイスのABB、ドイツのKUKAなどがある。国内では、ファナック、川崎重工業、安川電機などが存在する。日本企業のいずれもがグローバルに強く、市場シェアの約60%を占めるなど、日本にとって重要な産業の1つになっている。

 今後の方向性としては、中国での活用が圧倒的に加速していくことが予想されている。産業別にみれば、既にロボットを活用している自動車業界や電子機器業界の大企業などが、さらに導入規模を拡大していくだろう。並行して、中小規模の企業にも拡大していくはずだ。

 そこでは、ロボット単体としての利用ではなく、「Industrie4.0」や「Connected Industry」といった思想の元、ロボットをIoT(Internet of Things:モノのインターネット)端末に位置付けたスマート工場を目指す流れが強くなっていくだろう。

 一方で、食品・医薬品・化学品といった三品産業など新規の活用領域への導入が進むことも期待されている(写真1)。同領域に向けては、デンマークのUniversal Robotの製品に代表されるような、人の近くで稼働できる協働ロボットの開発・事業化が進んでいる。すでに年間生産台数は1万台を超えている。

写真1:三品産業での利用が進む協働型ロボット

 ロボットを活用していない企業に対しては、導入障壁を低下させる必要がある。そのために、ロボットメーカーだけでなく、レンタル会社やシステムインテグレーターなども、積極的に市場参入したり、さまざまな支援策を打ち出したりしている。

 たとえばオリックス・レンテックは、ロボットのレンタルサービス「RoboRen」を展開し、協働ロボットや搬送ロボットなど20社を超えるロボットメーカーの製品を扱っている。レンタルを組み合わせることで、初期費用を抑えながらロボットを導入できる環境を整えている。

EC事業拡大で物流倉庫への搬送ロボットの導入が加速

 ロボット活用が現在、ドンドンと進んでいる領域がモノを運ぶ現場だ。物流倉庫は、工場以外でロボットの活用台数が最も伸びているフィールドの1つである。搬送ロボットの市場規模は2020年時点で3000億円に上り、年成長率約15%と今後の成長も期待されている。

 搬送ロボはもともと「AGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送台車)」と呼ばれ、工場内で部品や完成品などを運ぶために1980年代から活用されてきた。

 当時のAGVは、床面に貼った磁気テープによってロボットを誘導することで、モノを搬送していた。そのため、決められた場所、決められたルートでしか搬送できず、ルートを変えるにはテープを貼り直す必要があった。これはこれで価格が安く、費用対効果は非常に有効なため、現状でも活用されている現場は多い。

 これに対し近年注目されている搬送ロボットは、搬送先や障害物に応じてルートをフレキシブルに変えられる無軌道タイプのものだ(写真2)。この磁気テープによる誘導に代わる次世代タイプの搬送ロボットの市場を切り開いたのは米Amazon.comである。

写真2:物流倉庫における搬送ロボットの利用イメージ

 Amazonは、EC(Electronic Commerce:電子商取引)市場の拡大に伴う搬送物増加への対応策として2012年、搬送ロボットベンチャーのKiva Systemを買収。以来、物流倉庫への搬送ロボット導入を一気に進めてきた。世界中の拠点に数百台単位で導入しており、日本においても川崎、茨木など複数の物流拠点で活用している。

 Amazonの搬送ロボットは、従来は人が倉庫内を歩き回り商品を取り揃えていたのに対し、商品棚の下にロボットが潜り込み、床に埋め込まれたQRコードなどを目印に商品棚ごと作業者の元へ移動させる。出荷する商品のピッキング作業の効率を劇的に改善している。