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ロボットの“魅力”と“魔力”がビジネスを見誤らせる【第7回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2021年1月12日

第5回第6回では、ロボットのビジネス化におけるシステムインテグレーションやビジネスモデルを取り上げ、それらの重要さと難しさについて述べた。今回は、ロボットのビジネス化を図るうえで大事な考え方について“ソリューション”の切り口から改めて考えてみたい。

 やや逆説的な表現になってしまうが、ロボットを事業化する際に最も重要な視点は「ロボットを販売しようとしない」ことだと考えている。特に、ロボットの提供価値が、生産性向上など自動化によるものを目指す場合には、この考え方は常に忘れてはならない。

 別の言い方をすれば、利用者は決してロボットが欲しいわけでなく、何かの困りごとがあり、それを解決したいと思っているのだ。その課題が解決できるのであれば必ずしもロボットを用いる必要はない。顧客からすれば「課題解決こそが目的であり、その手段の1つとしてロボットが存在している」のである。

 ところが、この当たり前のことを忘れがちになってしまう。本連載でも紹介してきたようにシステムインテグレーションや、RaaS(Robot as a Service)、Digital Transformation(DX)といった流行り言葉を使おうとすると、顧客の困りごと、特に顧客の重要経営課題に突き刺さらなくなっていく。結果、なんとなく実証(PoC:Proof of Concept、概念検証)はできても導入までには至らない。

 仮に導入まで至ったとしても、何のためにインテグレーションするのか、サービス化するのかということを常に考えておかなければ、より顧客の経営課題に突き刺さったソリューションが現れ、簡単に乗り越えられてしまう。

ロボットには“魅力”と“魔力”がある

 なぜ、このような当たり前のことを改めてこのタイミングで指摘しているのか。それは、ロボットには“魅力”あるいは“魔力”とも呼べる不思議な力が存在しているからだ。

 鉄腕アトムから始まり、ガンダムやドラえもんといった様々なロボットに日常的に接してきた我々は、なぜかロボットというものに対して妙にポジティブな期待を抱いてしまっている。特に、目の前でロボットが動き始めたり、合体とか変形といった、ある種のメカ的な動きを見てしまうと、なぜだか楽しくなってしまったりと一気にのめり込んでしまう。

 これらは紛れもなく、過去から現在まで多くの研究者や開発者、そして一般人やメディアを惹きつけるロボットが持つ大きな“魅力”である。

 しかし、ことビジネス化においては、冷静になって「本当に顧客の困りごとの解決につながっているのか?」を改めて考える必要がある。「ロボット以外の方法で解決したほうが良いのではないか?」「その動作は自動化する必要があるのか?」など、ロボットの魅力と戦わなければならない。

 こうした力は、開発する側に対しては特に、想像以上に強く働き、冷静な判断を難しくする。まさに“魔力”と呼べるレベルだ。実際に考え抜いてみると、ロボットでなければならない理由に辿り付くケースはかなり小さい。他のITシステムの導入や、専用治具の利用、業務そのもののオペレーション改善などで、大部分が改善されるケースが多いはずである。

 ロボットが、多くの人を惹きつける魅力を持っていること自体は素晴らしいことだ。その魅力をうまく活かしながらも、それらの“魔力”と正しく戦っていくことが重要である。

ロボットの導入に向けては徹底的な現場分析が不可欠

 ロボットの利用を手段ではなく目的化してしまう際に、よく起こりがちなのが、それまでに人が実施していた作業を、そのまま自動化してしまおうとすることだ。工場や物流などのB2B(企業間)の現場でも、介護などのB2B2C(企業対企業対個人)のような現場であっても、それは当てはまる。

 もちろん、そのままの自動化でうまく行くケースも、あるかもしれない。だが基本的には、現場分析のステップをしっかりと踏む必要がある。当たり前であるが、まずは現場を徹底的に分析し、現場で起きていることの何が問題で、それらの問題が経営上の課題にどのように紐づいているのかを把握しなければならない。

 筆者らの事例では、例えば病院内で薬剤などを搬送するロボット「HOSPI(ホスピー)」を病院へ導入する際には、写真1に見られるように、病院の現場で行われている作業を分析するケースが多々ある。そこでは分析者が、例えば薬剤師の作業や動線を、カメラやストップウォッチなどを使って徹底的に分析することになる。

写真1:搬送ロボット「HOSPI(ホスピー)」(左)と、導入検討時の現場での作業分析の例