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Well-beingに向けた「感覚・感性」は“五感”にとどまらない【第15回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2021年8月10日

前回、Well-being(幸福)を実現するにあたり重要な“ヒト”の理解について、ビジネス上の意義を紹介した。なかでも、IoT(Internet of Things)に対する「IoH(Internet of Human)」という概念から、ヒトの感情・感性・価値観といった内面的な情報が無意識下で取り扱われる社会になっていくと予測した。今回は、IoHが対象にする情報の中で、事業的にも重要になってくる「感性価値」につながる感覚・感性について深掘りしてみたい。

 これまで、幸福(Well-being)の実現においては「感性価値」が重要だと指摘してきた。である以上、感性と、その元になる感覚についての検討は避けられない。

感覚は五感だけに留まらない

 「感性」について辞書で調べてみると、「外界の刺激に応じて感覚・知覚を生ずる感覚器官の感受性」などと表現されている。ここに登場する「感覚」については「目・耳・鼻・舌などでとらえられた外部の刺激が、脳の中枢に達して起こる意識の現象」などとされる。

 すなわち、世の中で起きていることを知るためのセンサーとして感覚があり、その感度もしくセンシングした情報から、どのような感情・想いを生じさせるのかという「変換」が感性だと言えるかもしれない。

 この「感覚」は一体、いくつ存在しているのだろうか。アリストテレスは『霊魂論』においてヒトの感覚を「視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の5つがある」と分類した。いわゆる“五感”である。巷では、これに“第六感”として「直感」を加えることもある。

 五感以降、感覚はいくつあるのかについては「まだよくわからない」というのが現状だろう。例えば『Wikipedia』では、「平衡感覚」や「臓器感覚」など20個以上が記載されている。ある研究者との会話では「50個くらいは存在しているのではないか」とうかがったこともある。

 ヒトの内面に関しては実に多くの研究がなされている。だが、未知の部分が多く残されている領域でもある。筆者がリーダを務める「Aug Lab(技術による感性拡張によりWell-beingへの貢献を目指すパナソニックのオープンイノベーションラボ)」でも、感覚がどれくらい存在しているのかについて研究を進めている。

 Aug Labでは、ヒトの感覚・感性を理解し構造化するために、これまでの知見として先行文献を約30本参照したうえで、ヒトの内面や特性を理解しながら仕事をされている人々へのディープインタビューを実施した。具体的には、生花店主、高級ホテルの支配人、芸術家など約20人を対象に、業務上で意識している感性に関する事項を抽出した。

 文献やインタビューから抽出した感性に関する知見は、「グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach: GTA)」という手法により構造化を行った。GTAは、データから概念を抽出し概念同士を関連づけようとする方法である。

 自然科学的に考えれば、王道的なアプローチは、ヒトの中に存在している感覚の受容体を探し出し、分類していくことかもしれない。ただ今回は、自然科学的なアプローチにこだわらず、可能な限り網羅的というか全体像を理解することを優先し、NPO法人ミラツクの協力を得ながら、「感覚の体系化」と「感性価値の概念整理」に取り組んだ。

 結果の一部を円環図としてまとめたのが図1である。円環図の周辺には、小分類を導き出すのに使った元の文章が示されている。

図1:Aug Labの研究による感覚・感性の円環図