• Column
  • Well-beingな社会に向けたロボットの創り方

Society 5.0の自己拡張は“感情・感性”含む「IoH」で実現する【第14回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2021年7月5日

前回は、「自己拡張による幸福(Well-being)の実現」という文脈において、従来の1人ひとりの自己(個人)という考え方から、複数の自己が共存する「分人」の時代に突入しつつあるという少し哲学的な話をした。今回は、ビジネス的な視点から「自己拡張」の価値を紹介する。特に、第12回で紹介した身体的な拡張を伴う「量的拡張」と、精神的・社会的な拡張である「質的拡張」が持つ、人に関する情報・データの価値について考えてみたい。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)への関心が高まるなかで、「Society 5.0」(超スマート社会)というキーワードが使われるようになって久しい。この言葉が登場したのは、2016年1月に閣議決定された2016年度から5年間の科学技術政策の基本指針「第5期科学技術基本計画」である。以後、Society 5.0は頻繁に使われるようになった。

ヒトやモノのデータの最大限の活用が可能にするSociety 5.0

 基本計画においてSociety 5.0は、こう表現されている。

 「ICTを最大限に活用し、サイバー空間とフィジカル空間(現実世界)とを融合させた取組により、人々に豊かさをもたらす『超スマート社会』を未来社会の姿として共有し、その実現に向けた一連の取組を更に深化させつつ『Society 5.0』として強力に推進し、世界に先駆けて超スマート社会を実現していく。」(原文ママ)

図1:新たな社会の実現を目指す「Society 5.0」

 内閣府の「第2回基盤技術の推進の在り方に関する検討会」での表現を借りれば、Society 5.0は、サイバーとフィジカルを融合し両者のデータを最大限に活用するという考え方である「CPS(Cyber-Physical System)」を活用することで、これからの社会を実現しようとする取り組みであり、次の4つ段階が描かれている。

(1)個別のシステムが、さらに高度化し、分野や地域を越えて結びつき、
(2)3次元の地理データ、人間の行動データ、交通データ、環境観測データ、もの作りや農作物等の生産・流通データ等の多種多様でビッグデータを適切に収集・解析し、横断的に活用することにより、
(3)必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズに効率的かつきめ細やかに対応でき、
(4)あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語等にかかわらず、活き活きと快適に暮らせる社会

 このSociety 5.0/超スマート社会の実現をサポートするのが、AI(人工知能)やロボティクス、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)といったデジタル技術である。これら技術を有効に機能させるためにも、CPSにおいてサイバー空間とフィジカル空間を行き来するためにも必要になるのが、上記定義文などにも頻繁に登場する「データ」だ。

 その意味で、IoTというモノの情報をネットワークに乗せる技術は、非常に高い価値を有すると言える。これまで十分に活用し切れなかった現場のモノから得られる情報を、モノづくりや、エネルギー、モビリティといった領域で活用し、従来にない効率性や便利さを実現できた社会がSociety 5.0なのだ。