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“偏愛”から始まるアイデアが圧倒的な当事者意識を産む【第16回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2021年9月6日

“偏愛”から出発するメリット

 “偏愛”をアイデア創出の起点にするメリットは、いくつかある。その最たるものは「ニーズが明確である」ことだ。一般的な市場調査で炙り出されるニーズは良くまとまってはいるが、複数の意見がまとめ上げられた存在しそうなペルソナを作り上げるのが精一杯である。

 これに対し自分の“偏愛(もしくは、自分のまわりにいる人の偏愛)”を起点にした場合のニーズは明確だ。ペルソナではなく、当の本人が明確に存在し、その人が「欲しい」と言っているのである。

 このようなアプローチを取ると、「事業性が担保できないのではないか」という意見が良く聞かれる。だが、ニーズの汎用性の確保や、事業性の詳細な検討・精査は別途必要だとしても、多くの場合、世の中で一人しか感じない“偏愛”や“その裏の想い”というのは、ほぼほぼ少なく一定の事業性は存在するものだ。

 さらに個人的に最も重要と感じるメリットは、「圧倒的当事者意識」を持ったアイデアを創出できることである。自分や知っている人の“偏愛”から生み出されたアイデアは、まさに当事者意識の塊だ。新しい事業を作る、プロダクト/サービスを作ろうとする場合、最後までスムーズに進むことはまずあり得ない。

 このトラブルに対処し、壁を乗り越えるには、もちろんスキルや様々なアセットも必要ではあるが、何よりも大事なのは、自分事化して進められるかという点にある。「圧倒的当事者意識」は、そのコア中のコアと言える。テーマを起案した段階で内発的動機づけが終わっていると言っても良いであろう。

 今回、Well-beingを実現する感性価値の高いプロダクト/サービスのためのアイデア作りの方法として、偏愛マップの作成や、それを元にした対話による客観化、偏愛の情報を刺激するための情報拡張という3つのステップを紹介した。

 これらステップに続き、もう1つ大事なことは、簡単で良いので試作してみることである。試作により偏愛が刺激されそうかどうかが容易にチェックできる。

 次回からは、“偏愛”によって生み出されたアイデアから、どんな形のプロトタイプが作れたかという事例を紹介しながら、Well-beingや感性について深堀していきたい。

安藤健(あんどう・たけし)

パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部ロボティクス推進室総括。パナソニックAug Labリーダー。博士(工学)。早稲田大学理工学術院、大阪大学大学院医学系研究科での教員を経て、パナソニック入社。ヒトと機械のより良い関係に興味を持ち、一貫して人共存ロボットの研究開発、事業開発に従事。早稲田大学客員講師、福祉工学協議会事務局長、日本機械学会ロボメカ部門技術委員長、経済産業省各種委員なども務める。「ロボット大賞」「IROS Toshio Fukuda Young Professional Award」など国内外での受賞多数。