- Column
- Well-beingな社会に向けたロボットの創り方
“ぼーーっと”する時間が生み出すWell-being【第17回】
前回は、感性および感性価値が高いプロダクトやサービスを生み出すには、どうすればよいのかについて考察した。特に“偏愛”を起点にすることと、その“偏愛”を見える化・削る化することで感性を刺激できる可能性を指摘した。今回は、そのような考えに基づいて開発してきたプロトタイプを紹介しながら、個人のWell-being(幸福)について考えていきたい。
前回は、新規事業に向けたアイデアのネタを創り出す際には、顧客の“ペイン(痛み)”を正しく理解するよりも自身の“ライク(好き)”、なかでも“偏愛”と呼べるほどの気持ちを起点に考えることの有効性を指摘した。
この“偏愛”を起点にしたアイデアから開発したプロダクトの一例として「ゆらぎかべ:TOU」を紹介する。TOUは、その名の通り、ゆらゆらと揺れる壁だ。共同開発したコネルが作成したプロダクトの紹介ページも揺らいでいるので是非ご覧いただきたい。
キャンプのたき火を見るように“ぼーーっと”したい
では、なぜ、ゆらぐかべを作ったのか?“偏愛”の切り口でいえば、「自然の中のキャンプ場でする、たき火体験を家の中でもできないか」、すなわち自然の中で“ぼーーっと”してしまう、あの体験を家中でも味わえないだろうかと考えたからである。
“ぼーーっと”したいという想いとは裏腹に、現代人はとにかく忙しい。Web会議やチャット、テレビ、YouTubeなど、様々なデジタル情報が生活に満ち溢れている。さらには追い打ちをかけるようにリコメンド広告が視界に入ってくる。色々な方にヒヤリングをしてみると、人によってはトイレの中にまでスマートフォンを持ち込み、見入っているという。
こうした傾向は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の登場によって、さらに顕著になった気がする。リモートワークの環境では、気持ちの切り替え時間にもなっていた通勤時間がなくなり、自席から会議室へと移動する時間もなく、間髪を入れずにURLを切り替えるだけでWeb会議が絶え間なく続く日も珍しくはなくなっている。
NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる!』において、チコちゃんは「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と毎回怒っているが、もしかすると現代人に必要なのは、心の底から、脳の底から“ぼーーっと”することなのかもしれない。
この“ぼーーっと”する時間を創る際のヒントにしたのが、上述したキャンプ場のたき火だ。あるいは、祖父母の家で仏壇の前で見たロウソクの火の揺らぎや、線香から上がってきた煙のゆらぎである。あのような火や煙のゆらゆらした動きは、筆者個人的には、特に何も考えることなく心の底から“ぼーーっと”した状態で、いつまでも見ていられる。
こうした“偏愛”から生まれたアイデアを一緒に作り上げていったのが、共同開発のパートナーになったコネルだ。当時コネルは「雷玉Lighting Ball」と呼ぶプロダクトを発表していた。これは、NASA(米航空宇宙局)の観測データから落雷情報を抜き出し、リアルな雷として地球儀上に再現するもので「ランダム家電」として位置づけられていた。