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  • 新規事業開発でデジタル課題を発生させないための3条件

1→10フェーズ:汎化と特化を見極め技術負債の発生を抑える

畠山 和也(本気ファクトリー 代表取締役)
2020年9月11日

 こうした技術負債の発生は、ある程度は避けられません。「0→1フェーズ」で、「顧客課題」と「それを解決し、かつ実現可能な製品/サービス」のセットが見つかっているとはいえ、あくまでコア部分が判明したに過ぎません。必要十分な製品/サービスが見えているわけではないのです。

 必要十分を定義しようとしたときの手がかりは、上述の通り「顧客の声」です。大枠の方向性は「0→1フェーズ」で固まってきたとはいえ、最初に発見した「顧客課題」に対応する製品/サービスだけで大きな事業規模に発展することはまれです。複数領域を包含するような事業になって初めて、一定規模となるケースがほとんどでしょう。

 従って、関連している「顧客課題」のうち、どれを自社の製品/サービスに包含し、どれを当面のスコープから外すかという“高度な”判断が必要になります。

 当然ながら、この判断に時間をかけ過ぎると他社に出し抜かれてしまいます。短い時間の中で「どの顧客の声に代表される顧客課題に対応するか、どのように対応するか」を決めなければならないのです。

 次々に現れる顧客課題の対応の是非を逐次判断していくと、ある顧客のために開発した機能が別の顧客には不都合だったり、部分的にしか有効でなかったりすることが多々発生します。結果として、技術負債が溜まっていきます。事業開発スピードを維持するために開発を急いだことで技術負債が発生し、その解消のために事業開発が大幅に遅れていくのです。

製品/サービスが利用されるには特化は不可欠

 技術負債を現実的な課題としてとらえる際のキーワードは「特化」と「汎化」です(図3)。「特化」は、特定の顧客が抱える、ある課題に対してだけ対応する解決の方法。汎化は、その課題も扱えるけれど類似の他の課題にも使える解決の方法です。

図3:特化と汎化の違い

 こう定義すれば、常に「汎化」しておくのが正解のように思えます。ですが、完全に「汎化」されている状態は、あらゆる要素が「ブランク」で用意されているようなものです。個別の顧客に提供しようとすると、その顧客に合わせて、都度「定義」していかねばなりません。個別にカスタマイズしているのに近い工数がかかってしまい、効率的ではありません。

 そもそも、製品/サービスが利用されるのは、親しいニーズを持つ顧客群に、ある程度、共通の機能が予め用意されているからであり、適切なレベルの「特化」が不可欠です。つまり技術負債とは、適切なレベルで「汎化」と「特化」ができていない状態にあるといえます。

 「汎化/特化」問題の解決策の1つは、自社の事業領域が、ある程度、見えてきた段階で、すべてを1から作り直すことです。必要なシステムを定義できないのなら、割り切ってしまうのも1つの手です。

 ただし、どうしてもコストがかさみます。さらに「0 → 1フェーズ」が終わった段階では、同様の取り組みをしていた競合が多数、出てくるタイミングでもあります。競合との競争と、基礎システムの開発を並行して行うのは困難です。

 新規事業開発ではよく、「拙速は巧遅に勝る」と言われます。ですが、これはマーケットが顕在化した後は非常に顕著ですが、だれもが「0 → 1フェーズ」をクリアできていない段階では、そこまで重要性を持たない場合が多いのも事実です。

 そうした前提の上で、「汎化/特化」問題に対処する方法の1つが「汎用プラットフォーム」の構築です(図4)。

図4:汎用プラットフォーム構築がもたらす事業開発のメリット

 通常なら、汎用性の高いプラットフォームは、「1 → 10フェーズ」で適切に汎化し、その結果をもって「10 → 100(ジュウヒャク)フェーズ」で構築するものです。ですが、事業開発に着手する前の事業構想段階で、あらかじめ「自社が取り組む可能性のある事業領域」を徹底的に洗い出し、そこに必要な機能を「0 → 1フェーズ」で、事業・システム開発と並行して先に開発するのです。

 これにより、「0 → 1フェーズ」後のシステム開発だけでなく、「10 → 100フェーズ」で必要になる事業の横展開もスムーズに行えます。

 こうした汎用プラットフォームを開発するには、事業開発の広がりに対する深い理解が事前に必要です。かつ、資金余力のない事業開発前や初期段階でリソースを投入することは一定のリスクがあります。

 しかし、スピードが何よりも重要になる「1 → 10フェーズ」以降において、技術負債の不安を軽減し、事業・システムを開発できることは大きなメリットになります。