- Column
- 新規事業開発でデジタル課題を発生させないための3条件
1→10フェーズ:汎化と特化を見極め技術負債の発生を抑える
実践事例:ビットキーのデジタルキープラットフォーム「bitkey platform」
汎用プラットフォームを事業開発の前から設計しておく手法を採っているのが、スタートアップ企業のビットキーです。スマートフォンで開閉するスマートロック事業などを手掛けています。
創業2年目ながらビットキーは、スマートロックとして複数のプロダクトを展開しています。家庭用の「bitlock LITE」から、マンション入口のオートロック用の「bitlock GATE」、オフィスドア用の「bitlock Pro」、オフィスの受付システム「bitreception」などです。
こうした横展開を支えているのが、創業当初から開発に取り組んでいた「bitkey platform」という個人のIDと権利(回数や期間など)を管理するプラットフォームです(図5)。
スマートロックと一口に言ってもその用途はさまざまで、求められる仕様は異なります。家庭用であれば、基本的な開閉と鍵のシェアができれば十分でしょう。これがオフィス用であれば、入退室状況や権限の管理が求められますし、ホテルや民泊用では日々変わる利用者に鍵を効率的に提供できなければなりません。
これらの「顧客と課題」と、それぞれに応じた個別の製品/サービスを提供するには、「特化」が必要になってきます。ビットキーの場合、bitkey platform上で既に汎化してあるため、複数セグメントに対応した製品/サービスの開発が容易になるのです。
bitkey platformについて、ビットキーCEOの江尻氏は次のように述べています。
「特化して作った製品/サービスは、その課題だけにフィットするものですから、類似のものを新たに開発しようと思えば1から再設計し作り直さなければなりません。ここで事業開発のスピードが落ちてしまいます。これに対し、適切に汎化しておけば、足りない部分を追加するだけのコストで済みます。特定の顧客や開発スピードに特化して作ることもできますが、その場合は必ず、後から汎化し横展開できるようにしておくことが肝要です」
システム開発のやり直しは膨大な時間と予算がかかる
あらかじめ横展開する事業領域を想定し、必要な機能をプラットフォームとして事前に用意することだけが、技術負債を最小化する方法ではありません。しかし、事業開発の初速のために、特定の顧客課題の解決に特化した製品/サービス開発をすることは、後に大きな負担を生み出してしまいます。
システム開発は、やり直すと膨大な時間と予算がかかります。目の前の顧客課題の解決とともに、自分たちの事業開発の行方を見据えて、汎化しておくべき領域を見極めるプロセスを可能な限り早い段階で実施しておくことが、中長期的に見て、事業開発のスピード高めるうえで必要なのです。
畠山 和也(はたけやま かずや)
本気ファクトリー 代表取締役。2005年ソフトバンクBB(現ソフトバンク)に新卒入社以後、リクルート、スターティアラボ、ラクスルにて新規事業に携わる。2014年に独立以後は博報堂や三井不動産など主に大企業の企業内起業を支援する傍ら、パラレルキャリア人材として複数のスタートアップに株主/役員として参画している。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。