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コロナ禍でテレワークが“流行る/流行らない”議論の違和感【第1回】

能地 將博(日本アバイア ビジネスデベロップメントマネージャ)
2020年9月3日

米では「9.11」以後、BCPの観点から政府が推進

 『テレワークの導入やその効果に関する調査結果令和元年版』(総務省、2018年)によると、2018年度のテレワーク導入率は19.1%です。つまり8割は、コロナ禍以前は、テレワーク未経験だったわけです。

 それが新型コロナウイルスが発生し、緊急事態宣言が解除された後の状況を東京商工会議所が調査し、2020年7月14日に発表した『第6回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査』によれば、「新型コロナ以降テレワークを実施したが、現在は取りやめた企業」が調査対象の26.78%になります。「現在実施している」の31.02%を考慮すれば約半減です。

 これら2つの調査は、対象が異なるため端的に数値を比較することは適切でないかもしれません。しかし傾向値として、企業のテレワーク実施率は、コロナ禍の前が20%、緊急事態宣言が中60%(3倍程度増加)、解除後は30%(減少傾向)と、とらえられるのではないでしょうか(図1)。

図1:緊急事態宣言解除後はテレワーク実施率が低下。2018年の値は『テレワークの導入やその効果に関する調査結果令和元年版』(総務省、2018年)より、2020年の値は『第6回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査』(東京商工会議所、2020年7月14日)より。2020年5月の値は推定値

 コロナ禍は収束していないため、収束後にテレワークがどうなるかはわかりません。ですが1つ言えることは、「オフィスに物理的に行けるようになれば、テレワーク実施を下げるバイアスがかかる可能性が高い」ということだと思います。

 では、その押し下げバイアスはなんでしょうか?パーソル総合研究所の『第三回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査』は、「テレワークを行っていたが現在出社している理由」として、次の5つを挙げています(図2)。

 「テレワークで行える業務ではない」(35.7%)は仕方ないとしても、「制度が未整備」(30.3%)と「システムが未整備」(21.4%)という環境の未整備と、「会社からの出社方針」(18.8%)と「会社が消極的」(15.7%)という会社方針が中心です。社員側の「テレワーク継続希望率」が69.4%と高いことから考えれば、明らかに会社側の判断が押し下げバイアスになっていることがわかります。

 別の調査『各国のデレワーク導入状況(企業導入率)』(NTTデータ経営研究所、『情報未来』2020年7月号)を見ると、テレワークの導入率は、米国の85%に対して、英国38.2%、ドイツ21.9%、フランス14.0%、日本は13.9%と、米国が群を抜いて高いことがわかります。

 米国の導入率が高い理由は、国をあげて推進してきたからです。1990年代からテレワーク推進に関する法律が制定され、2010年には連邦政府がテレワーク強化法を成立させています。2001年9月11日の同時多発テロ事件「9.11」も影響しています。大規模災害時に機能を分散させておくことで、壊滅的な被害を避け、事業継続(BCP)を図る狙いがあるとのことです。

 ジョブ・ディスクリプションにより個人の仕事の範囲と責任が明確化され、テレワークが推進しやすかったという理由もあるようです。これ以外にも、国土が広大なため、移動や時差といった時間的・物理的制約をなくす合理的判断があったためもあるでしょう。