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コロナ禍でテレワークが“流行る/流行らない”議論の違和感【第1回】

能地 將博(日本アバイア ビジネスデベロップメントマネージャ)
2020年9月3日

効率的で有意義なら会社に行けば良い

 これら調査データから筆者は、次のように言えると考えています。

 「日本企業はコロナ禍によりテレワークを経験したが、物理的に出社できるようになると、会社方針によりテレワークを否定するバイアスが働く可能性が高い。推進・定着を図るには、米国のように、法律制定が有効」

 極論すれば、「テレワークは物理的に可能であるにも関わらず、会社がそれを阻止しようとしている」と言えます。

 押し下げバイアスの1つである環境(制度とシステム)さえ整備できれば、その会社はテレワークを推進するのでしょうか。コロナ禍で富士通や日立製作所がテレワークの推進を発表しました。両者ともに資金力が豊富な大企業であり、かつIT企業ですから“当然”とみることもできますが、筆者は、それ以上に会社や組織としての意思を感じます。

 筆者が感じた「テレワークが流行るか・流行らないか議論」に対する違和感は、所属する会社や組織の意思を社会のムーブメントとして語られているからなのでしょう。冒頭で、筆者がテレワークを開始する際に罪悪感を感じたとお話ししましたが、その罪悪感を経営者や管理者が感じているのかもしれません。

 「仕事は会社で行うもの」という古い固定観念に縛られた同調圧力は働いていないでしょうか。「会社に行く」ことや「会社にいる」ことに価値を置くのではなく、もっとスマートに会社で行ったほうが生産性が高いなど“パフォーマンス”に価値を置くべきでしょう。

 会社に行った方が効率的で有意義なら行けばいいし、在宅あるいはリモートで仕事をした方が効率的なら、そうすべきでしょう。ゼロサムで考えるのではなく、臨機応変にテレワークのいいとこ取りをすればいいと思います。

 ちなみに、ITネットワークの観点から論ずれば、テレワークのためのシステム構築は、それほど難しくはありません。コストをかけない方法も登場しています。これが10年前なら、一部の企業しか実施できないと言われてもしかたがない部分があったかもしれません。月額払いのクラウドでの提供が主流になりつつある今、IT環境もテクノロジーの進歩とともに十分こなれてきています。

“メリハリのある働き方”を

 最後に筆者が勤務するAvayaが米国で実施した調査『Avaya Digital Home Office Research, May 2020』を紹介します。結果自体は特段意表を突くものではありません。アフターコロナでは、テレワークを「ときどき実施」「主に実施」がいずれも増加傾向にあるというものです(表1)。

表1:米国におけるテレワークの実施状況。『Avaya Digital Home Office Research, May 2020』より
コロナ禍以前2020年5月時点パンデミック後の希望
ときどき42%23%56%
0%48%30%23%
主に(76~100%)10%47%21%

 ただし、テレワーク先進国である米国ならではの視点で調査されている点に注目してほしいのです。すなわち、ときどきテレワークをする」という視点が質問項目に入っているのです。「やるか、やらないか」のゼロサムではありません。

 この調査で注目すべきポイントに、2020年5月の「テレワーク(海外ではWFH:Work From Home)を実施してない」ことの理由があります。「家では仕事ができない」(59%)は日本と同じですが、ユニークなのは「仕事場に行けるので(19%0」です(図3)。主体的に“出勤”を選択しているのですね。

図3:米国では主体的に出勤を選ぶ人が少なくない。『Avaya Digital Home Office Research, May 2020』(Avaya)より

 日本同様に、「雇用主がWFH環境を提供していない」という環境未整備については、わずか8%しかありません。米国では、テレワークが働き方の1つの方法として確立しているのがわかります。なんでも米国に見習えというつもりは毛頭ありませんが、テレワーク先進国の働き方を参考にするのは有効ではないでしょうか。

 この観点において、経済再生担当大臣の西村 康稔 氏が2020年7月26日に出した「経済界へのお願い」の中で、「テレワーク70%・時差通勤」への協力を求めたことは大変評価すべきことだと思います。ゼロサムであったテレワーク実施を数値化することで「週に3、4日はテレワークをする」、逆に言えば「週1、2日は出社する」など“メリハリのある働き方”を模索できるようになります。

 出社日は、密を避けた対面でのミーティング中心にスケジュールを組み、それ以外の日は調べごとや資料作成など一人仕事中心にWeb会議で十分な内容のミーティングをアレンジする。このようなテレワークを組み入れた働き方を実践できます。

 次回は、この臨機応変の働き方を実践すべきポイント、システム寄りの実現方法について書きたいと思います。

能地 將博(のうち・まさひろ)

日本アバイア パートナー営業本部 ビジネスデベロップメントマネージャ。早稲田大学卒業後、大手独立系SI企業に入社。その後、外資系IT企業のプロダクトマネージャ、マーケティングマネージャを歴任し、2008年より日本アバイアに勤務