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ネットワーク業界もDXを謳うことの違和感【第4回】

能地 將博(日本アバイア ビジネスデベロップメントマネージャ)
2020年11月5日

ネットワーク業界が関わりそうなDX関連ソリューションもある

 とはいえ、ネットワーク業界でも、DXの目標や戦略1/2、および戦術を目指すことに関連しそうなテーマはあります。DXを「IT化=デジタル化」の視点で拡大解釈すれば、クラウド、AI(人工知能)、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)、テレワークをサポートするITツール(第2回参照)などが挙げられます。

 このなかからクラウドについて、ネットワーク業界に務める筆者から見たDX関連ソリューションの現状を見てみましょう。

 経産省のDXの定義に照らしてクラウド利用による顧客メリットを考えると、「ビジネスモデルの変革」が一番ピンと来ます。

 クラウドといえば、インターネット上にデータを保存し、目的にあったアプリやサービスを利用するという利用形態に目が行きがちです。ですが筆者は、新たな所有と支払い形態の定着の方がインパクトがあると考えます。

 つまり、CAPEX(資本的支出)からOPEX(事業運用費)への支払形態の変化です。所有形態を無視し支払形態だけにフォーカスすれば、ワンタイムな支払い(初回一括払い)から月払いや年払いへの変化です。

 利用顧客は一括でシステム費用を支払う必要がないため、当該システム資金を有効に活用できます。そのタイミングに必要な他分野へ投資をすることもできるし、何が起きるかわからない将来のためにCF(キャッシュフロー)を温存しておくこともできます。もちろん、総支払コストは大きく変わりませんが、キャッシュの有効利用という点では選択肢は拡がります。

 ベンダーの立場においても、月払い/年払いのRecurring Revenue(継続的に発生する売り上げ)はメリットがあります。ワンタイムの売上計上だと、常に案件を獲得しなければなりません。月払い/年払いでは、サービス契約期間中は毎月/毎年、売り上げを複数回計上することになります。1回の計上金額は当然少なくなりますが、将来の売り上げ見込みが立てやすく、経営はより安定します。

 「たまたま、この四半期、あるいはこの年は売り上げを予定通り獲得できなかった」などの売上減少が発生しても、Recurring Revenue比率が高い場合は、新規の売上減をある程度はカバーできます。

 日本企業の状況は、あまり明るくありませんが、海外ベンダーはRecurring Revenueの比率を非常に重要視するようになってきています。筆者が勤務する会社の米国本社Avaya Holdingsでも、毎四半期決算ではRecurring Revenueの増加をトップ項目として報告しています。

クラウドだから“安い”“最新”には注意が必要

 クラウドの支払形態は、所有形態を無視すれば、顧客企業にとってはリースと変わらないのかもしれません。「クラウドのメリットは、Recurring Revenueとしての売上計上にトランスフォーメーションできてたベンダーやクラウド提供会社だけにある」と指摘されるかもしれません。

 しかしクラウドでは、Pay per use(従量課金)の料金体系も採用されています。特に、ユーザー数/ポート数/トラフィック単位の料金と、サーバー使用料が別のライセンス体系を取っている製品/サービスの場合、使った分だけの料金チャージは顧客企業にとっても“お得感”があり、メリットがあります。

 オンプレミスの場合、どうしても最大使用数を意識したライセンス購入が必要です。しかし、Pay per useのライセンス体系をサポートするクラウドの場合、使った分だけの請求になります。突発的にライセンス使用が増えてしまうことを考慮せずに通常使用数で契約すればよくなります。

 ただし、最大値と最低値の差がありすぎる場合は、クラウド提供側の立場からすると、少々頭の痛い問題が出てきます。最低値の場合にも当該顧客の運用サービスは提供しなければならず、コストが発生している点です。クラウド提供費用のほとんどがライセンス許諾費用であったとしても、プラットフォーム費用や固定的な人件費は発生しています。そのためベンダーにすれば、合理的なミニマムコミット(最低値保証)は設定したいところです。

 ちなみに、トータルコストの観点からは、クラウドもオンプレミスも「あまり変わらないケースが多い」ことには注意が必要です。サービス料金が含まれているため、自社で実施するサービス費用を計算に入れなければ、3〜4年でオンプレミスの方がトータルコストが安くなるということも珍しくありません。「クラウドだから安い」は誤認識につながります。

 クラウドとオンプレミスは、支払い形態やシステムの設置場所、サービス形態が異なるモデルだとの認識が必要です。プラットフォーム費用、運用を含めた全作業項目を自社で担う場合とクラウド(他社)が担う場合とで比較する必要があります。

 ネットワークベンダーに勤務する立場で、こんなことを書いていいのか迷うところですが、「常に最新システムが使用できる」というクラウドの謳い文句についても少々注意が必要です。「IT分野は技術革新が激しく、減価償却が終了する頃には、当初導入システムが陳腐化してしまう。その点、クラウドは提供者側が常に最新システムに更新していくので、その心配はない」といった宣伝文句です。

 注意点とは、契約期間中の解約にはペナルティが発生することです。契約期間中は最新システムを利用できるかもしれませんが、クラウド事業者を、そう簡単には変更できません。また、システムの入れ替えも、導入試験や他システムとの互換試験など多くの作業が発生します。おいそれと簡単には変更できません。

 クラウドだからといっても、最新バージョンや最新技術を、そう簡単に取り入ら得られる訳ではないのです。この点について筆者は、クラウドだからというメリットはあまりないと考えます。

 もちろん、上記のような考慮もいらない単純なシステム、単体で使用するシステムやアプリケーションであれば、その限りではありません。ベンダークラウドが一般化しつつあり、ベンダーが常に最新バージョンにアップデートするため、手間をかけずに最新システムをメンテフリーで使えるというメリットが享受できるでしょう。

クラウドの利用が業務改革につながることも

 その他のクラウドのメリットには「業務変革」もあります。テレワークの回でも触れたように、クラウドにつながるネットワークがあれば、どこからでもアクセス可能であり、働き方変革につながります。そう考えるとクラウドは、DXの定義にある戦略1=ビジネスモデル変革、および戦略2=企業文化変革を満たす純然たるテーマかもしれません。

 最後にクラウドの導入状況に触れておきます。日本は、海外に比べ5年遅れていると言われています。複雑なシステムになると、自社仕様/独自仕様が多くなり、どうしてもガラパゴス化してしまい、汎用システムであるクラウドの標準サービスでは対応できないことが理由の1つです。新しいテクノロジーを積極的に採用する国民性でないことも理由でしょう。

 とはいえ2020年に入り、筆者が勤務する会社が提案するコンタクトセンターのシステム要件では、半数近くがクラウドになってきました。オンプレミス中心だったシステム領域においても、ようやくクラウドが主流になりつつあるようです。

能地 將博(のうち・まさひろ)

日本アバイア パートナー営業本部 ビジネスデベロップメントマネージャ。早稲田大学卒業後、大手独立系SI企業に入社。その後、外資系IT企業のプロダクトマネージャ、マーケティングマネージャを歴任し、2008年より日本アバイアに勤務