• Column
  • ネットワークから見たDXの違和感

ネットワーク業界もDXを謳うことの違和感【第4回】

能地 將博(日本アバイア ビジネスデベロップメントマネージャ)
2020年11月5日

「デジタルトランスフォーメーション(DX)」のキーワードを耳目にすることがないほどに話題ですが、ネットワーク業界にいる筆者にとっては正直、「自分にはあまり関係がない概念」ぐらいの認識でした。改めてDXについて調べてみたものの、やはり自分には関係がない概念のように感じました。この違和感がどこからくるのでしょうか。

 正直に告白すると、本連載を開始するまでは「DX」について、ほとんど意識することはありませんでした。「DX=デジタルトランスフォーメーション」程度の理解です。本連載を始めるにあたり、「それでは、まずい」と、改めてDXについて調べてみたものの、ネットワーク業界にいる筆者にとっては、やはり関係がない概念のように感じています。

 経済産業省はDXを次のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

DX戦略の実行主体は当事者である企業

 これを筆者なりに解釈すると次のように分類できます。

・ビジネス環境の激しい変化に対応= 環境
・データとデジタル技術を活用= 戦術
・顧客や社会のニーズを基に= 環境
・製品やサービス、ビジネスモデルを変革= 戦略1
・業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革= 戦略2
・競争上の優位性を確立する= 目標

 つまり、「変化の激しいビジネス環境にあって顧客や社会ニーズ(環境)に対応し、競争上の優位性を確立する(目標)。そのために、製品/サービスやビジネスモデルと企業文化・風土を改革する(戦略1と戦略2)方針のもと、データとデジタル技術を活用する(戦術)」ということです。

 このように分けて考えると、戦略1と戦略2の実行主体は、当事者である企業、あるいは企業を支援するコンサルティング会社だと考えられます。

 戦術は、データ化とデジタル化であり、その有効活用です。ネットワークの観点から論じれば、データはそもそもデジタル化され、IP(Internet Protocol)網のネットワークで送受信されています。いまさらデジタル化といってもあまりピンときません。

 そうすると戦術の対象は、主にアナログ資料をデジタル化し、それをデータとして意味のある形に変え、さまざまに分析・活用できるようにすることだと考えられます。この効率的なやり方やノウハウを提供するのは、システムインテグレーターやデーターベース関連業界です。

 つまりネットワーク業界が、戦略と戦術において、直接的に関与し推進するところがないのです。そのためDXは、ネットワーク業界のテーマとは思えず、ここに筆者がネットワーク企業がDXを謳うことに違和感を感じる大きな理由があるようです。

DXはIT業界のみのバズワード?!

 しかし、ネットワーク業界でもDXを使った宣伝文句を目にします。「テレワークによりDXが加速する」などが最たる例です。

 「テレワークによりDXが加速する」は、目標は別にしておいて、戦略1の「ビジネスモデルを変革する」は明らかに抜け落ちています。戦略2の「企業文化を変革する」は満たしているように見えます。AND条件にこだわる必要はないのかもしれません。しかし、テレワーク“だけ”で戦略2の「企業文化が変革」ができるとは思えません。ここは本連載の第1回から第3回参照でも、その違和感をお伝えしました。

 つまり、この宣伝文句は、戦術だけにフォーカスし、テレワークに伴う「ITツールの利用、それによる仕事様式の代替および資料のテータ化/デジタル化」をDXだと拡大解釈しているようです。

 もう、めんどくさいことは考えず、「DXはIT業界のバズワードだ」と理解すれば、かなりしっくりきます。過去に流行った「BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング」や「eCommerce」などと同様に、DXを“IT化=デジタル化”だと考えればいいのです。「デジタル化により、これまでできなかったことをできるようにする」というアプローチ”がDXであり、IT化を啓蒙・推進する現代のバズワードだと理解するのです。

 その点、ネットワーク業界最大手の米Cisco SystemsはDXを正しく解釈しながら、DXをうまく利用して販売促進しています。

 Ciscoのメッセージは、「5Gと共に日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する」です。DXのデジタル化によりデータ量が増大するので、セキュアで信頼性の高いインフラが必要になる。そのために「DXのプラットフォームとしての5Gを推進する」というものです。

 そもそものDXでの購買喚起ではなく、DX周辺でのビジネス提案を明確に謳っています。かつてゴールドラッシュに湧く米カリフォルニアで、デニムを販売し好業績を享受したリーバイスのようなポジションです。