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音声対話の基本である「電話」を見直さない違和感【第7回】
テクノロジーの利用姿勢が将来を大きく左右する
ここで断っておかなければならないことがあります。A社とB社の差は、筆者が勤める会社が提供する電話システムが非常に優れていたためではないということです。IP電話システムを導入し、目的や意図をもったシステム設計・運用を行っていれば、他社製の電話システムでも同様の結果をもたらせたことでしょう。
ベンダーの立場からすればここは、「当社製品は他社と、ここが違う。こんなに良い機能もある!」とアピールしたいところではあります。ですが、それは使い勝手には影響しても、テレワークの実行可否に直接影響を与えるものではありません。A社が数年前からIP化を正しく実践してきた当然の帰結です。
そのA社のIP化(IP-PBX化)も特段に早い時期に実施されたわけではありません。電話システムのIP化は20年前ぐらいから“普通”のテクノロジーとしてマーケットで採用され始めています。5年前の時点ですでに、プロダクトライフサイクル的には「成熟期」を迎えたテクノロジーです。
加えて、A社がメールやファイルのシステムをかなり早い段階からクラウド化し、新しい働き方を進める準備をしていた点は特記しておかなければなりません。内勤者を含む全社員のPCも、持ち運びが可能なノートPCに切り替えています。「社内ミーティングなどで持ち運べるように」とのことですが、当然リモートワークも意識していたのでしょう。
その他システムのクラウド化を進め、システム環境が整ったのが2019年。その段階でテレワークの試験運用を開始しています。翌2020年から新型コロナウイルスが蔓延しだし、緊急事態宣言が発出され、テレワークによる業務を余儀なくされましたが、A社は市場にあるテクノロジーを自社に最適化できるように採択し準備していたと言えます。
B社もIT企業です。社員数や売上規模はA社より大きく、A社と同様の情報や知識はあったはずです。ただ電話システムについてはレガシーのままだったようです。
システムを見直す契機は常に存在している
ところで、新型コロナウイルスの発生はたまたまで、たまたまテレワークをしなければならなくなったのでしょうか。部分的には正しく、部分的には誤っています。新型コロナウイルスの発生は予見できなくても、オフィスに出社できない状況が発生した場合に備え、準備をしておかなければなりませんでした。これまでも、SARSウイルスしかり、2011年3月11日の東日本大震災しかり、大きなリスク要因が発生しています。
こうした災害が発生するたびに、ビデオ会議やDR(Disaster Recovery:災害復旧)システムやBCP(Business Continuity Planning:事業継続計画)の必要性が叫ばれてきました。それを契機にシステム刷新を図った企業も多いことでしょう。そこには電話システムの刷新も含まれていたはずです。
その電話システムにおいても、SBCを導入しなければ、どこからでも電話を受発信できる環境にはなりません。SBCも2010年頃には一般化し始めており、最新テクノロジーではありません。しかし日本では、残念ながら全く導入は進んでいません。ダイヤルイン番号同様、今すぐ見直されても良いテクノロジーだと思います。
もちろん電話システムをIP化しただけではA社のようにテレワークへの完全移行はできません。その他の関連システムの準備のほか、人事制度や労務管理、評価制度の見直しも必要です。
テレワークの推進については、第1回から第3回で詳しく解説しました。テクノロジーやソリューションについても触れています。しかし、プロダクトライフサイクルの成熟期にある電話システムについては、筆者自身も当たり前すぎて、ほとんど触れていません。正直、電話システムで、A社とB社ほどの差が出るとは思っていなかったからです。
筆者自身、A社の担当者との話をきっかけに、技術の採用により、これほどの差が生まれていることに、今さらながらに気付かされました。
本稿をきっかけに、既成概念にとらわれず、既存のテクノロジーや運用のメリット/デメリットを、ビジネス遂行の観点で見直してみてはいかがでしょうか。自社では“不要”と判断しているテクノロジーが、他社ではすでに当たり前に使われており、ビジネス上の差をもたらしているかもしれません。
能地 將博(のうち・まさひろ)
日本アバイア パートナー営業本部 ビジネスデベロップメントマネージャ。早稲田大学卒業後、大手独立系SI企業に入社。その後、外資系IT企業のプロダクトマネージャ、マーケティングマネージャを歴任し、2008年より日本アバイアに勤務