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日本各地で始まる公共分野への3D都市モデル活用【第5回】

藤井 篤之、増田 暁仁(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2021年12月8日

防災領域:災害リスクを可視化し災害に備え適切な避難行動を促す

 3D都市モデルの活用例としては、防災分野の取り組みが特に進んでいる。災害リスクを可視化し、災害に備えたまちづくりに取り組む。

福島県郡山市:洪水ハザードマップを立体化

 福島県郡山市の中心部には、東北地方南部を代表する阿武隈川と、その支流の逢瀬川が流れる。そのため数年に一度の頻度で大規模な洪水・浸水被害に見舞われている。これまでも河川改修事業や洪水ハザードマップの作成など防災活動に取り組んできた。今回、災害リスクを3D都市モデル上にわかりやすく可視化する実証実験に取り組んだ。

 実験では、浸水位と建物の高さ・階数を比較し、最大規模の浸水が発生しても最上階が浸水しない建物を抽出し、建物の最上階へ緊急的に垂直避難が可能だと判定するアルゴリズムを作成した。

 建物属性情報としては、郡山市が都市計画基礎調査などによって把握していたデータから、建物の高さ、地上階数、浸水深、構造種別、家屋倒壊等氾濫想定区域内木造建物を活用している。

 判定アルゴリズムを3D都市モデルに適用することで、郡山駅周辺の垂直避難可能な建物を可視化した。さらに避難所・避難場所など洪水ハザードマップの情報を重ね合わせて表示することで、住民に対して早期の適切な避難行動を促すきっかけづくりにも寄与している。

鳥取市:浸水時の避難誘導を高度化

 鳥取市も市内中心部を一級河川の千代川が貫いている。郡山市同様の実証実験を実施し、洪水の広がりによって道路が徐々に使えなくなっていく様子を可視化した。国土地理院が提供する地点別浸水シミュレーション検索システム「浸水ナビ」が公開している時系列の浸水シミュレーションデータを3D都市モデルに重ね合わせた。

 地域防災の専門家である鳥取大学の有識者と協力し、鳥取市や地域住民を対象したセミナーなども同時に進めることで、3D都市モデルを地域の避難誘導の高度化に役立てようとしている。

東京・虎ノ門ヒルズ:避難訓練をシミュレーション

 東京・港区にある虎ノ門ヒルズを運営する森ビルは、「地域の防災拠点としたまちづくり」を社会的使命と考え、「逃げ出す街から逃げ込める街へ」というコンセプトのもと様々な活動に取り組んでいる。

 その一環として実施するのが、BIM(Building Information Modeling)データと3D都市モデルを統合した「避難訓練シミュレーション」の実証実験だ。屋内と屋外をシームレスにつないだデジタル空間を用い、オフィスや商業施設が入る複合施設の避難計画をシミュレーションすることで適切な避難方法を探索する。周辺建物の築年数など建物属性情報を可視化し危険個所を事前に判断することで安全な避難経路の確保に役立てることを目指しているという。