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日本各地で始まる公共分野への3D都市モデル活用【第5回】

藤井 篤之、増田 暁仁(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2021年12月8日

まちづくり領域:人の動きを把握し都市開発の効率を高める

 3D都市モデルの活用例として取り組みが進む分野に、まちづくりの領域がある。まちという空間の最適化やステークホルダー間での同意形成などに取り組む。

東京・大丸有:センサーの設置方針を最適化

 東京の大手町・丸の内・有楽町の「大丸有」地域を対象にしたスマートシティの実現を目指す大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会は、「エリアマネジメントのDXモデル」の構築を目指している。リアルとデジタルの都市を高度に融合し、都市のリアルタイムデータを収集し、そのデータに基づいて意思決定を下すのが目標だ。

 大丸有エリアのまちづくりでは特に、丸の内仲通りにおけるウォーカブルな空間化に重点を置き、平日と、休日、国際的な会議や展示の開催時などの目的別・用途別のリ・デザインコンセプトを打ち出している。利用者を起点とした空間構築を実現するために、同エリアを訪れた人の動きを把握し、それらに合わせた空間の設計を企図している。

 そのための情報を効果的・効率的に収集するための実証実験として取り組むのが「センサー配置シミュレーション」である。センサーの配置を3D都市モデル上でシミュレーションし、設置エリアや具体的な設置箇所、センサーで取得可能な範囲・精度などを3D空間に可視化する。

 実証実験での丸の内仲通りをシミュレーションした結果、建物と街路灯の両方にセンサーを設置すれば、街路樹のみに設置する場合と比べ、より少ない個数で空間全体を計測できることが確認できた。

 今後は、エリア全体をシミュレーションし、センサーの設置方針「センサーマスタープラン」を策定する計画だ。スマートシティのインフラとして必要なセンサー類の設置の全体最適化が期待される。

長野県茅野市:開発許可に関する行政事務の効率を高める

 長野県茅野市は、開発許可のための行政事務の効率化と手続きの負担軽減に向けた3D都市モデルの活用の実証実験「都市空間に関する情報の集約による行政事務の効率化」を実施した。開発許可に必要な都市関連情報を3D都市モデルに一元化し、Webアプリケーションとして一覧できるようにした。

 一覧できる情報は、都市計画規制に関する用途地域や高度地区といった情報、過去に開発を許可したエリアの情報、災害リスク情報、立地適正化計画に関する都市機能誘導区域や居住誘導区域といった情報である。

3D都市モデルを用いて都市構造をプランニングする

 今回紹介した、これらの事例は、都市のプランニングに3D都市モデルが活用できる幅広い可能性を示唆している。

 災害領域の例であれば、3D都市モデルが今後、精緻化され時系列で保存されていけば、災害発生現場において現実空間と過去の3D空間を比較によることで、正確な被害状況を確認し、それを多人数が同時に共有することで迅速な意思決定が可能になり、必要な復旧計画の策定などにも活用されていくだろう。

 まちづくりの領域は、3D都市モデルを活用した都市開発ビジョンの可視化や共有化に向けて、上記以外にも多数の実証実験が始まっている。例えば名古屋市は、都市計画の基礎調査情報を活用した都市構造の可視化に取り組んでいる。

 3D都市モデルに歩行者の動きを重ねる実証実験も進む。大阪市は、新大阪駅周辺エリアでのウォーカブルな拠点整備を目指した都市開発に伴う歩行者量変化の可視化に、静岡県沼津市は沼津駅周辺エリアにおいて、歩行者の回遊状況を記録するプローブパーソン調査を活用したスマートプランニングに、それぞれ取り組んでいる。

 今後は、公共利用ユースケース開発や実証実験にとどまらず、より本格的な3D都市モデルの活用事例が続々と登場してくるに違いない。

 次回は、民間ビジネスにおける3D都市モデルの活用例を紹介する。物理世界を可能な限り本物に近く再現する「ミラーワールド」や、仮想空間上でコミュニケーションを取るサービス「メタバース」など発展形としての民間ビジネスを取り上げたい。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

増田 暁仁(ますだ・あきひと)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 テクノロジーストラテジー&アドバイザリーグループ テクノロジー戦略プラクティス マネジャー。立命館大学文学部人文学科地理学専攻卒業後、2014年アクセンチュア入社。先進技術を中心とした新規事業戦略立案、スマートシティ戦略策定実績多数。国土交通省の「Project PLATEAU」には担当マネジャーとして参画。