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スマートシティを支えるリファレンスアーキテクチャと「都市OS」【第7回】

藤井 篤之、谷本 哲郎(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年2月9日

都市OSの連携機能を活用し住民サービスを実現

 都市OSを導入・活用した事例も登場し始めている。その代表例と言えるのが、群馬県前橋市が開発した「母子健康情報サービス」(2022年2月21日からは「OYACO plus(親子健康情報サービス)」としてリニューアル提供する予定)だ。

 母子健康情報サービス/OYACO plusは、母子健康手帳に記載されている健診結果や予防接種スケジュールなどの情報を、スマートフォンやPCを通じて、いつでも、どこでも閲覧できるようにしたサービスだ。これまで個別システムとして運用してきた母子健康に関する情報配信と、乳幼児健康診査結果情報の閲覧、予防接種のスケジュール通知、成長記録などのデータをポータルサイトから閲覧できる。

 同サービスはスマートシティ間の連携によって前橋市から横展開され、福島県会津若松市が採用している。同市では、マイナンバーカードの公的個人認証機能を利用した「母子健康情報ポータル」を構築し、安心かつ利便性の高い母子健康・子育て環境を効率よく実現するためのサービスとして提供している(図4)。

図4:都市OSを活用した会津若松市の母子健康ポータルの概要(出所:総務省ICT街づくり推進会議 地域懇談会における「会津若松市 母子健康情報サービス資料」)

 このサービスは、住民情報や健康福祉など会津若松市の基幹系システム群、および市民の健康管理システム「健康かるて」とのデータ連携によって実現されている。将来的には都市OSを介して医療機関が持つ外部データとの連携も検討されている。

 これらの例のように、都市OSを活用するアイデアはどんどん広がっている。例えばヘルスケア分野では、各医療機関が個別運用してきた診察予約や順番待ちのシステムと、タクシーの配車システムを組み合わせ、診察時間が近づいたタイミングでタクシーが迎えに行くといったサービスが検討されている。防災分野では、災害発生時に避難所に速やかに移動できない高齢者・障碍者・傷病者などを特定し、支援に急行するといったサービスが考えられている。

都市OS導入時にはアナログな課題にも留意する

 実際にスマートシティに取り組むにあたり、都市OSをどのように導入していけばよいのだろうか。

 都市OSを導入する前に留意したいのが、「都市OSとはあくまでもサービスやデータをつなぐための手段である」という点だ。どのようなまちづくりに取り組み地域課題の解決を目指すのかといった全体戦略のもと、どのように利用者の利便性向上を実現するサービスを提供するのか、運営の主体はだれか、どのようにデータを集め、管理するのか、順守すべき関連法やルールは何かなど、アナログ面も踏まえて適切に導入する必要がある。

 新規にデータを取得するにも相応の取得・運用コストを要するため、持続性やデータ再利用を踏まえた判断も必要だ。データ連携を実現していくには、データの生成・取得・加工が持続可能な形で提供されること、収集したデータが単独分野でなく他分野でも広く活用できることを踏まえる必要がある。

 日本では、既存のシステムやサービスによって生み出された多種多様なデータが存在している。これらのデータを活用できるモデルを構築するところから始めることが重要だ。ただ、都市OSの機能としては接続ルールに合わせていくだけでデータがつながるとするものの、基本的にはデータ提供元の影響力のほうが強いため、相互にメリットがなければ、なかなか上手くいくものではない。

 データ公開そのものを目的化して現場の業務負荷や継続的な更新作業などを考慮せずに進めてしまうと、形式がバラバラなデータや、更新されないデータセットが公開されることになる。結果的にデータ活用が進まない状況を招く恐れもある。まずは都市OSにつなげるサービスについてのモデルを確立したのち、他の都市OSとの連携やデータ公開を模索することが望ましい。

 これらを踏まえ都市OSを活用すれば、スマートシティにおいて、住民との様々なコミュニケーションを実現するためのサービスをゼロから作り上げる必要がなくなる。既存システムなどが管理するデータを活かしたサービスを迅速に立ち上げられる。都市OSが今後、拡張性の高いスマートシティの実現に貢献していくことは間違いないだろう。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

谷本 哲郎(たにもと・てつろう)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 シニアマネジャー。システムベンダーでの営業およびビジネスディベロップメントの約10年のキャリアを経て、2011年アクセンチュア入社。公共サービス領域(官公庁・自治体・公益団体など)の中でも、主にデジタル・スマートシティ関連領域のプロジェクトに参画。自治体、行政機関、地域大学、各関連民間企業と連携し、会津若松市をはじめとしてデータ活用したスマートシティ関連(観光、エネルギー、医療、地域ポータル等)の各プロジェクトにおけるデジタル戦略策定、システム構築・とりまとめ、事業推進支援に従事している。