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スマートシティを構成するスマートビルの現状【第9回】

藤井 篤之、山田 都照、深川 翔平(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年3月23日

スマートビルのデジタル基盤となる「ビルPF(Platform)」

 これらのソリューションを支えるのが「ビルPF(Platform)」だ(図1)。スマートシティで言うところの「都市OS」同様に、スマートビルのソリューションを提供するための基盤となるデジタル技術で構成されている。

図1:スマートビルが目指すのは各種ソリューションの提供

 具体的には、複数のソリューションをシームレスに連携しデータ共有や制御を実現するAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)や、統合ユーザーインタフェース、共有データを蓄積・保管するストレージ、データを探索して新たな知見を得る分析基盤などである。

 ビルPFで管理するデータを収集するために重要な役割を持つのが、ビル内に設置されるローカル機器である。空調や照明、動力、防災、セキュリティなどのための設備機器と、各種IoT(Internet of Things:モノのインターネット)センサーを制御するコントローラーやネットワークだ。

 ローカル機器の一部は、インテリジェントビルにも取り入れられていた。だが、そこでのソリューションは、電源設備や空調設備などの機器単体の故障予知や最適制御が中心だった。結果、設備機器メーカーごとに仕様が異なり、機器を横断したデータ活用や統合制御の自由度が限定された。

 これに対しスマートビルでは、設備連携仕様のオープン化とAPI仕様の標準化により、他社製の設備機器や空間情報などとの連携、ソリューションのマルチベンダー対応などが可能になってきている。

先行するビル管理者向けソリューション

 スマートビルはすでに数多くの事例が存在し、各種ソリューションの提供が始まっている。今回はまず、ビル管理者向けソリューションを紹介する。

エネルギー管理事例:竹中工務店

 日本を代表するスーパーゼネコンの1社である竹中工務店は、スマートビルを実現するためのデータプラットフォーム「ビルコミ(ビルコミュニケーションシステム)」の研究開発を進めてきた。2021年5月には、ビッグデータ処理などの新機能を追加してもいる。

 ビルコミは、竹中工務店が自社物件のスマートビル化を図るためのプラットフォームだ(図2)。スマートシティの都市OSともデータ連携が容易なビルPFに位置づけ、オープンプロトコルを採用したクラウドサービスとして提供する。各種設備機器の制御システムやIoTセンサーから取得・収集したデータを効率的に扱え、設備機器を一元的に稼働監視したり、空間内のワーカーの活動量を測定し空調を最適化したりといったソリューションを実用化している。

図2:竹中工務店のビルPF「ビルコミ」の概要(竹中工務店のビルコミの紹介サイト:https://www.takenaka.co.jp/solution/future/builcomi/より)

 エネルギー管理の実例として自社ビル(竹中工務店 東関東支店)にも適用している。2003年に竣工した自社ビルを2016年に改修する際に、ビルコミとエネルギー管理関連のソリューションを導入。導入後の1年間で経済産業省資源エネルギー庁が定義する「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の基準を達成した。 ZEBとは「大幅な省エネルギー化を実現した上で、再生可能エネルギーを導入することによりエネルギー自立度を極力高め、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建築物」(資源エネルギー庁)である。