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スマートシティを構成するスマートビルの現状【第9回】

藤井 篤之、山田 都照、深川 翔平(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年3月23日

スマートシティ/スーパーシティの構成要素の1つに「スマートビル」がある。多くの人が集まるビルを取り巻く環境は大きく変化し、スマートシティにおける位置付けも重要さを増している。大都市圏ではスマートビルそのものがスマートシティと呼べるほどの事例もあるほどだ。今回と次回では、急速な発展や変革を遂げつつあるスマートビルについて解説する。

 ブラウンフィールド型スマートシティは、住民が生活している既存の都市をスマート化する取り組みだ(関連記事)。そのブラウンフィールド型のスマートシティで大きな存在感を放っているのが「スマートビル」である。首都圏や名古屋、大阪、福岡などの大都市圏で進むスマートシティプロジェクトの約6割で、街区内に建設されたスマートビルを中心に取り組みが進められている。

省エネ視点のインテリジェントビルが原典に

 スマートビルに標準的な定義はない。だが1990年代から、ビル管理システム(BMS:Building Management System)により電力や通信インフラ、セキュリティ設備を集中制御する「インテリジェントビル」が次々と建設されてきた。インテリジェントビルの目的は主に、ビルの省エネルギー化やビル管理の高度化にある。

 その後、ビルを取り巻く環境は大きく変化し、ビルに求められる役割も変わってきた。脱炭素社会やカーボンニュートラルの実現に向けた再生可能エネルギーの活用、コストに直結する慢性的な人手不足によるビル管理の効率化はもちろんのこと、コロナ禍や働き方改革に伴う多様なワークスタイルへの対応、テナントやワーカーへの新たな価値の提供なども重視されている。

 そこから生まれたのが、「ビルのあらゆる情報を一元管理し、様々な領域に対応できる高度なビルを作ろう」という発想だ。これがすなわちスマートビルである。近年新たに建設された、あるいは建設中のオフィスビルや複合ビルの大半がスマートビルというのが現状だ。

 バブル期から30年以上が経過した今、当時に建設されたビルの建て替え需要が高まる見通しである。スマートビルが新たなスタンダードになることは間違いない。

 スマートビルを巡る市場は今まさに勃興期にある。大手ゼネコンや大手不動産デベロッパーをはじめ、ビル管理を担うファシリティマネジメント会社や、デジタル技術に強い設備機器メーカー、不動産テック企業まで、参画者は広範囲に及ぶ。各社が競争と協業を繰り広げている。

 従来のインテリジェントビルの目的は主にビル管理の高度化だった。これに対しスマートビルでは、種々の環境変化に対応するために、ビルに携わるすべての人を対象に、それぞれが必要とする用途に対応するソリューションの提供を目指す。ビル管理に加えて、テナントやワーカーいったビル入居者、さらには設計・施工者の利便性や快適性までも考慮する。

 ビル管理者向けソリューションとしては、「クラウドBEMS(Building Energy Management System:ビルエネルギー管理システム)」や「ロボット遠隔制御(省人化)」「設備機器故障予知」などがある。テナント・ワーカー向けには「入退館管理」「会議室予約」「混雑可視化」などが、設計・施工者向けにはデジタルツインやBIM(Building Information Modeling:ビル情報モデリング)/FM(Facility Management:ファシリティマネジメント)の機能などが挙げられる。