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進化するスマートビルが生み出す価値【第10回】

藤井 篤之、山田 都照、深川 翔平(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年4月6日

設計・施工者向けでは入札管理や設計支援を支える

 ビルPFの機能やデータを活用したソリューションとしては、設計・施工者向けも登場している。その代表格と言えるのが、リアル(物理)空間とサイバー(仮想)空間をデータに基づいて融合する「デジタルツイン」や、一連の建設プロセスを3次元モデルによって効率化・高度化を図る「BIM/CIM(Building Information Modeling/Construction Information Modeling)」である。

 例えば、デジタルツインのクラウドプロバイダーである米Bentley Systemsは、スマートビル向けのBIMソフトウェアやBIMデータに基づいて種々のシナリオを予測するシミュレーションツールなどを提供している。

 建設特化の米Procore Technologiesは、スマートビルの建設プロジェクトに必要な機能をクラウドサービスとして提供する。入札管理や財務、設計支援、アセット管理などだ。

 国内では、大林組、鹿島建設、大成建設、清水建設、竹中工務店のスーパーゼネコン5社をはじめとする各社が、デジタルツインやBIM/CIMの活用に向けた取り組みを加速させている。それぞれがデータプラットフォームの整備を進める。例えば大成建設の統合プラットフォーム「T-iDigital Field」では、膨大な施工データの情報共有と安全管理の支援を目指している(図4)。

図4:大成建設の「T-iDigital Field」の概念(出所:https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2021/211126_8539.html

スマートビルの価値を高めるには業界としての取り組み・共創が重要に

 ここまで、ビル管理者、テナント/ワーカー、設計・施工者のそれぞれを対象にしたスマートビルソリューションを紹介してきた。これらソリューションによりスマートビルは、どのような価値を生み出すのだろうか。

 まず挙げられるのが、ビルの建設・運営にかかるコストの削減という価値だ。ビル管理者向け各種ソリューションでは、ビルメンテナンスや警備の省人化が図れるほか、エネルギー管理の仕組みによるコスト最適化も実現できる。事業共同体など企業をまたいだデータ/情報連携を図れば、工程の出戻りを削減する効果も期待できる。

 ビル空間全体の状況を可視化・把握できるソリューションでは、ビルに入居するテナント企業やワーカーの快適性や満足度の向上という価値も提供できる。ビルテナント賃料や稼働率のアップにもつながっていく。

 スマートビル内で蓄積した膨大なデータを街区内など複数のビルで共有すれば、スマートビルの棟数が増えれば増えるほど、そのソリューションは進化する。将来的にはスマートシティへと発展していくという価値も考えられる。

 これらの価値を生み出すスマートビルには、ゼネコンやデベロッパー、設備機器メーカーなど多くの企業が興味を示している。実際、様々なプロジェクトが始動している。しかしながら、これらの業界は多重下請け構造を持っており、企業間連携やデジタルケイパビリティが不足しているという課題もある。

 そうした課題を解決していくには、ベンダー1社に任せるのではなく、企業間のパートナリングを進め、建設テックや不動産テックと呼ばれるスタートアップ企業なども巻き込みながら、業界全体でのデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や、デジタル化に向けた共創といった取り組みが重要になっていくだろう。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

山田 都照(やまだ・くにあき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ シニア・マネジャー。慶應義塾大学大学院理工学研究科卒業後、2010年アクセンチュア入社。主に、通信・ハイテク業界における新規事業戦略立案、アライアンス戦略策定、中長期事業戦略策定等、幅広く案件を手掛ける。

深川 翔平(ふかがわ・しょうへい)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジャー。同志社大学大学院 理工学研究科卒業後、2013年アクセンチュア入社。主に、通信・ハイテク・小売業界における新規事業戦略立案、中長期事業戦略策定、発注改革等、幅広く案件を手掛ける。