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進化するスマートビルが生み出す価値【第10回】

藤井 篤之、山田 都照、深川 翔平(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年4月6日

スマートシティの構成用途として「スマートビル」が続々と姿を見せ始めている。前回は、スマートビルの概要などとともに、先行するビル管理者向けソリューションの事例を紹介した。今回は、テナントやワーカー向け、および設計・施工者向けへの新しいソリューション事例を紹介するとともに、スマートビルが生み出す価値について考える。

 第9回では、運用が既に始まっているスマートビルにおけるビル管理者向けソリューションの事例を紹介した。クラウドBEMS(ビルエネルギー管理システム)」「ロボット遠隔制御(省人化)」「設備機器故障予知」などである。

 ビルの構築・運用に携わる層としては、ビル管理者のほかに、ビルを利用するテナントやワーカー、ビルを建てる設計・施工者などがある。こうした層を対象にした新しいソリューションが発展してきている。

テナント/ワーカー向けに混雑可視化や会議室予約が広がる

 スマートビルの核にはビルOS、ビル基盤とも呼べる「ビルPF(Platform)」がある。データ共有や設備機器の制御、ソリューション連携のためのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)といった機能を提供する。

 これら多種多様な機能を持つスマートビルが真価を発揮するのは、ビルに入居するテナント(オフィスやショップなど)や、そこで働くワーカーを対象にしたソリューションである。

データ活用事例:ソフトバンクと東急不動産

 前回も取り上げた「Smart City Takeshiba」は、ソフトバンクと東急不動産が取り組む都市型スマートシティプロジェクトである。同プロジェクトの拠点ビルである「東京ポートシティ竹芝オフィスタワー」はビルPFを備え、ビル館内に設置した1400超のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)センサーデバイスから得られるデータを一元管理している。

 ビルテナントに対しては、これらセンサーデータなどから混雑状況や人流、空席などを把握し、映像解析やWi-Fi接触情報を加味して分析することで、ビル利用者の人数や性別、年代といったデータを統計化し提供している。各テナントは集客施策や在庫管理、売上予測などに活用すれば「データに基づいたマーケティング」を実現できる。

 館内の約30カ所に設置したデジタルサイネージでは、テナント店舗ごとの混雑情報を表示するほか。時間帯や空席率に応じて利用者のスマートフォンアプリにクーポンを自動配信し、アイドルタイムの集客向上を図るといった実証実験にも取り組んでいる(図1)。

図1:「東京ポートシティ竹芝オフィスタワー」に設置されているデジタルサイネージの例(出所:https://www.softbank.jp/biz/dx/takeshiba/solution/

 ワーカー向けには、ワーカー専用アプリやデジタルサイネージを使って、テナントが共用するフリースペースやテラス、エレベーターホール、飲食店、トイレなどの混雑状況をリアルタイムに配信する。空いている時間帯の利用を促し混雑解消につなげる。

 ビル管理や向けサービスである入退館ゲートの顔認証・温度検知デバイスとエレベーターの連動機能を使って、ワーカーはタッチレスでエレベーターを利用できる。