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スマートシティで実現される新しいモビリティの姿【第11回】

藤井 篤之、矢野 裕真、中野 浩太郎(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年5月11日

カギを握る自動運転レベル4/5の普及

 スマートシティの実現を推進するモビリティの社会実装は、コスト問題を解決し経済性が成り立つことが前提になる。そこでカギを握ると考えられるのが、高度な自動運転レベルの実現に向けた技術革新だ。

 近畿運輸局によると、現在の民営・公営を平均した路線バスのコスト構造は、車両費が約7%なのに対し、人件費が6割程度を占める。大都市圏周辺を除く地方では、運転手の担い手がいないなど人材確保が難しいという課題もある。こうした課題を「自動運転レベル4」「同レベル5」の普及が解決すると期待されている。

 自動運転レベル4/5は、いずれも自動運転システムが主体になって運転を操作し走行する車両を指す。ただレベル4は、その利用が「限定領域内」と定義されており、レベル5が走路を問わない完全な自動運転になる。

 当面はレベル4でのサービス化が中心になるだろう。現時点では、走路が決まった空港内の閉域におけるランプバスなどがメインだが、徐々に市中内でも規定ルートを運行するサービスが出現し始めている。

 自動運転レベル4/5が実現・普及すれば、運行にかかるコストは約3分の1に抑えられると言われている。アクセンチュアの試算では、日本全国約7割に及ぶ赤字バス路線が3割程度に減ると期待できる。

 自動運転化は、配車可能な車両数を増やせる。従来の定時・定路線型ではなく、需要に応じて乗降できるオンデマンド型へと切り替えれば、利便性も大きく高められる(図3)。人口密度150人/平方キロメートル程度の都市ならば20分間隔で運行できると、アクセンチュアは試算している。

 ただし、その実現に向けては受容性や技術的な課題もある。現時点において国内で自動運転レベル4の商用化事例は、茨城県境町などにおける地方エリアでの自動運転バスや、東京・大田区の「羽田イノベーションシティ」の自動運転バスなどに限定されている。

 クルマの走行は人命に直接かかわるため、自動運転の普及促進には、どうしても慎重にならざるを得ない。とはいえ、完全な事故ゼロの実現を検証してからの導入では、諸外国に大きな遅れをとることになる。スーパーシティなどの特区で、地域を限定し住民に十分な説明を実施し理解を深めたうえで、事業採算性が確保できる事業として積極的に導入していくことが望まれる。

 自動運転の普及は地方自治体の財政改革のカギとなる。それだけに各自治体は将来の代替交通インフラとして積極的に取り組む姿勢が必要だ。同時に、真の財政効果を出すために、交通インフラや建物施設、その他行政サービスのあり方について並行して見直す必要がある。

 そのためにも、単に民間に任せるのではなく、自治体側でも総力を挙げて住民の利便性や快適性を追求できるサービスを企画すると同時に、財政改革に寄与する都市インフラ構想を早期にしっかりと練るべきだと考える。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

矢野 裕真(やの・ゆうま)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部ストラテジーグループ 自動車 プラクティス日本統括 マネジング・ディレクター。日系コンサルティング会社、プライベートエクイティ投資会社を経てアクセンチュア参画。自動車業界をはじめとする製造業を中心にデジタルテクノロジーを活用した事業開発や事業戦略から始まり、グローバル各国展開やM&A、実装に向けた実務支援まで企業価値向上に向けた豊富な支援経験を有する。

中野 浩太郎(なかの・ひろたろう)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部ストラテジーグループ 自動車 プラクティス シニア・マネジャー。モビリティ領域を中心に、新たなテクノロジーを起点とした新規事業の構想や企画から業務・システム設計、運営体制の立ち上げ・教育まで一貫して多数支援している。