• Column
  • スマートシティのいろは

スマートシティで実現される新しいモビリティの姿【第11回】

藤井 篤之、矢野 裕真、中野 浩太郎(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年5月11日

公共交通機関をはじめとする「場所から場所への移動手段」であるモビリティは、私たちが生活していくうえでなくてはならない存在だ。デジタル技術やデータを活用しながら持続可能な都市を目指すスマートシティにおいて、モビリティの変化は街づくりの変化に直結している。今回はスマートシティにおけるモビリティのあり方や、実現に向けたカギを握るコア技術を中心に解説する。

 東京の街並みにも、水運などによって形作られた名残がある。このように移動手段としてのモビリティが、どう変化していくかは将来の街のあり方を決めるうえで非常に重要な要素になる。移動のあり方は今後、自動運転技術の普及などによって変わるだろうし、その移動のあり方が変われば、道路の引かれ方は変わり、居住・商業・工業地区といった区分の配置のあり方も変わるだろう。

最重要テーマは“安全性”

 スマートシティにおいても、利便性や快適性を備えたモビリティの実現は極めて重要な取り組みになっている。そのための様々な取り組みがすでに進められている。なかでも重要なテーマとして取り上げられているのが「安全性」である。

 日本や欧米主要国では2012年以降、「ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:先進運転支援システム)」と呼ばれる安全運転機能が大きく普及してきている。交通事故は減少傾向にあるものの、残念ながら依然、痛ましい重大事故は一定数存在しているのが実状だ。この課題に対し、モビリティのスマート化によって解決を探る動きが出てきている。

 例えば米国では、スマートシティに取り組む都市を中心に「ロードサイドユニット」と呼ばれる交通制御機器の導入が始まっている。オハイオ州コロンバスの取り組みでは、市内175カ所の主要交差点にセンサーユニットを設置し、センサーデータからエリアごとの安全性を評価すると同時に、車両にもリアルタイムに情報を発信することで、交差点の安全性を高めようとしている。

 同様の交通制御の仕組みは、交通渋滞の緩和にも役立てられている。例えば中国浙江省杭州市では、同市に本社を置くアリババの支援のもと、AI(人工知能)技術を使って信号機を交通量に応じて制御する交通管理システムが稼働している。

“脱炭素”と“事業持続性”への配慮も必須

 さらに、スマートシティにおけるモビリティにおいては、「脱炭素」と「事業持続性」も配慮すべき必須テーマになっている。

 脱炭素の観点では、カーボンニュートラルを実現するEV(Electric Vehicle:電気自動車)の普及促進を背景に、モビリティとスマートグリッド(電力網)の融合が進みつつある。デンマークでは、EVのバッテリーからグリッドへ放電するV2G(Vehicle to Grid)の商業サービスがすでに始まっている。V2Gのためのシステムを手がける米Nuvve(ヌービー)といった企業も登場してきている。

 事業持続性の観点で注目されるのは、交通インフラを大きく見直すとともに、デジタル技術を活用した新しいモビリティサービスを創出しようという動きだ。

 先進各国では、人口の減少に伴って既存の交通インフラの維持が困難な都市や地域がでてきている。この課題を解決するために、自動運転のような新技術を導入して運用コストを下げたり、建物などの生活インフラをモビリティと融合させて利便性を上げたりといったアプローチが出てきた。

 米Robomartがカリフォルニア州で手掛ける移動販売事業「モバイルコンビニカー」が、その一例(図1)。交通困難地域の住民は、専用のスマートフォン用アプリケーションを使って近くの車両を手配し、生鮮品や医薬品などを決済フリー(自動精算)で購入できる。将来的にはドライバーを含め、完全無人化・完全自動化を目指しているという。

図1:移動型店舗によるモビリティソリューションの先進事例