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地域医療を支えるヘルスケアが求める医療健康情報の共有【第13回】

藤井 篤之、谷田部 緑(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年6月15日

ヘルスケアのための情報連携

 こうした分断を解消するためには、各医療健康情報をライフステージや健康状態、受診した医療機関・施設を問わず、市民のオプトイン(本人の意思による選択)のもと、すべてのデータが一元的に利用できる仕組みを構築する必要がある。

 市民に対して何らかのヘルスケアサービスを提供する医療機関や事業者は、スマートシティが提供する医療健康情報のデータ基盤を通じて情報を適切に入手・活用することで、市民1人ひとりにあったヘルスケアサービスが提供できるようになる(図1)。そのことは、市民の健康を都市や地域全体で管理する体制の整備を促し、健康を推進するまちづくりにもつながる。

図1:医療健康情報連携の現状と目指すべき姿

 目指すべき医療健康情報の連携・共有の姿の一端を海外の先行事例に見ることができる。海外では「Electronic Health Record(EHR:電子健康記録)」と呼ばれる、医療機関をまたぐ情報連携の仕組みが行政主導で構築されている。その情報を民間が活用する形での連携も始まっている。

海外事例1:シンガポールの「NEHR」

 シンガポールでは2011年、政府の出資による「National Electric Health Record(NEHR)」と呼ぶサービスの提供が始まっている。政府の強力なコントロールがあってこそという側面はあるが、医療機関同士の情報連携や共有をすでに実現しているという点で世界的にも先進的な事例といえるだろう。

 NEHRは、医療健康情報を集中管理するデータベースを備えたシステムによって実現されている。サービス開始当初こそ連携可能なデータの範囲やユーザビリティなどに問題があったものの、その後は電子カルテシステムとの自動連携など継続した改善が繰り返され、医療従事者の間で非常に高い評価を獲得している。現在は渡航履歴や新型コロナウイルスのワクチン接種記録などの情報も統合し、コロナ禍のリスク管理においても効力を発揮した。

 ちなみにNEHRのブループリント(青写真)の構築は、アクセンチュアが主導するコンソーシアムが担当した。2010年の受注から10カ月で実装した後も、サマリーケア記録といったサービス拡張やセキュリティ、標準化を含めた設計・運営にも携わっている。

海外事例2:米国の「Human API」

 米国では行政が医療健康に関する情報連携の基準を設定している。それを民間が活用するためのサービスの1つに「Human API」がある。

 Human APIは、個人の管理下にある様々な医療健康情報を、個人が選択したサービスと連携するためのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)の仕組みを提供するサービスだ。すでに2億6000万人が利用し、医療機関同士の情報共有に加え、健康管理サービスや医療保険の加入可否判断などにも活用されている。

 個人はサービスを無料で利用できる。利用料は基本的に、保険会社など個人のデータを受け取って活用する企業/組織が負担する。米国政府は医療機関に対し、医療健康データを患者や市民が活用できる形で還元することへのインセンティブを付与し、医療健康データの活用を推進している。医療健康データを患者や市民が管理しながら活用できる仕組みが発展することで今後、患者や市民を主体とした医療健康情報のための連携基盤が登場してくることだろう。