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地域医療を支えるヘルスケアが求める医療健康情報の共有【第13回】

藤井 篤之、谷田部 緑(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年6月15日

少子高齢化が進む日本において、医療・介護をはじめとするヘルスケアサービスの発展と品質向上は重大な関心事の1つになっている。スマートシティの取り組みにおいても、ヘルスケア分野は極めて注目度の高いテーマだ。同領域におけるデジタル技術を活用した都市や地域の課題を解決に向けた取り組みについて、世界および日本の現状を俯瞰しながら、目指すべき姿について考察する。

 健康の維持は人びとの生活の基本である。超少子高齢社会の日本では、医療や健康に関する支出が国内総生産(GDP)のおよそ11%に及ぶ(『Health Statistics 2021』、OECD)。疾病全体に占める生活習慣病の割合が増加傾向にある現代において、医療・介護をはじめとするヘルスケア分野が果たす役割は高まる一方だ。

 現在のヘルスケア分野には解決しなければならない大きな課題がある。ヘルスケアサービスを提供する病院や薬局、健診機関など複数の施設にまたがって存在する個人の医療健康情報が、全くと言ってよいほど連携・共有できていないことだ。診療や検査、投薬などに関する患者情報の連携や管理が、ほぼ個人任せという現状では、適切な健康管理や医療サービスの提供は難しい。

 これらの課題を解決するためにも、都市や地域という単位で個人の医療健康情報を共有可能にすることが急務になっている。2020年からのコロナ禍で明らかになったように、感染症対策の局面でも、都市・地域単位で公衆衛生や医療体制を最適化していくことが望ましい。

 こうした背景から、日本国内でもスマートシティにおける取り組み分野として、医療・健康といったヘルスケア分野への注目が高まっている。同分野の課題解決を図るには、デジタル技術の活用が不可欠だからだ。

 実際、デジタル田園都市構想において、他地域などのモデルを活用する「デジタル実装タイプ Type 1」に採択された705件の事業のうち、健康・医療分野の取り組みが83件ある。従来のスマートシティでは、エネルギーやモビリティの分野が特に先行してきた。

日本の医療健康情報はライフステージで分断されている

 ヘルスケア分野においてスマートシティがどう対応すべきかを考える前に、日本の医療健康情報の連携がどのような状況にあるのか、市民のライフステージごとに改めて整理してみたい。

生まれてから就学前の乳幼児の時期

 地方自治体が交付する「母子健康手帳」を使って医療健康情報が管理されている。母子健康手帳には、乳幼児期の健診情報や予防接種記録が記載される。

就学後

 健診の記録は学校や教育機関が管理するようになり、母子健康手帳に記載された情報と分断されてしまう。

就職後

 社会に出ると、それぞれの職域保険が健診情報を管理する。退職や転職によって保険が変わると情報は引き継がれない。疾病やケガによって医療機関を受診した場合も、診断や治療の内容、投薬情報や医療費などの情報は各医療機関が個別に管理しており、異なる医療機関を受診すると情報は共有されない。

リタイア後

 会社/組織を離れると、国保・後期高齢者の保険制度によって管轄が自治体に移る。高齢で要介護状態になれば、過去の病歴を介護施設と情報共有するためには自ら申し出る必要がある。

 このように日本における医療健康情報は、ライフステージによって個別に分断・管理されている。極めて初期の段階にあると言える。