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地域医療を支えるヘルスケアが求める医療健康情報の共有【第13回】

藤井 篤之、谷田部 緑(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年6月15日

介護・福祉領域での取り組みとの情報連携が必要に

 医療・健康の領域で重要なのは、必要なときに必要な対面サービスをスムーズに受けられることである。そのため、スマートシティにおける医療健康情報共有の取り組みでは、海外の先行事例にもあるように、個人を中心としたヘルスケアデータの管理を実現すべきだと考える。

 特に日本では、スマートシティのヘルスケア分野とは別に、医療・健康だけでなく介護・福祉行政も含めた地域での取り組みが進められている。例えば、高齢者の生活支援や介護・医療・予防を一体化した「地域包括ケアシステム」、患者の同意に基づいて医療機関や薬局、訪問看護、介護事業者間で医療健康情報を共有する「地域医療情報連携ネットワーク」などである。

 いずれも、複数の施設や事業者が一体になり、全体最適を目指したヘルスケアサービスの市民への提供という目的は共通だ。だが現時点では、特定の医療・介護事業者間でのデータ連携など限られた範囲での取り組みがほとんどである。これらを含めた医療健康情報の共有を考えなければならない。

 上述したように現状、個人の医療健康情報は異なる組織に点在している。例えば、現役世代は健康保険組合(職域保険)が疾病・健康を管理するが、退職後は地方自治体の国民健康保険(地域保険)に加入する。健康保険が切り替わるタイミングで個人の医療健康情報は分断され、引き継がれていない。

 これに対し、スマートシティが提供するヘルスケアサービスによって職域と地域の情報連携が可能になれば、既往症や生活習慣など、長期にわたる情報をもとに適切な健康管理や医療サービスが受けやすくなるのは間違いない。

 さらには、ヘルスケアに閉じた取り組みではなく、市民生活を幅広く横断した取り組みが必要だ。複数の施設での情報共有はもとより、患者を医療・介護施設に効率的に送迎するモビリティや、病院や薬局などでの医療費決済といった他分野との連携への発展が期待できるからだ。

 都市や地域といった単位で医療健康情報を共有する大きな意義は、医療サービスのスムーズな提供に加え、市民1人ひとりに焦点を当てた個別ニーズに寄り添ったヘルスケアおよび、その関連サービスまでもが提供可能になる点にある。

都市OSが持つデータ連携機能を活用する

 当然、日本政府も、こうした医療健康情報の連携の姿を実現すべく積極的にデジタルヘルスの改革に取り組んでいる。マイナンバーカードと健康保険証の連携、医療機関や薬局でのマイナンバーカードによるオンライン資格確認といった仕組みである。

 既に、その運用が始まっているものの、ユーザビリティ(使い勝手)や利用率は、まだまだ途上段階にある。将来構想が頻繁に変わるなど課題は山積している。全国に約270(2019年時点)ある地域医療連携ネットワークも、医療健康情報の記録基盤としては、まだ十分に機能していない。多くが資金面の課題を抱え、地域によって参加率や活用度合いに大きな幅がある。

 民間事業者からも、医療健康情報の連携基盤を提供するSaaS(Software as a Service)型クラウドサービスを提供するなどの取り組みが始まっている。例えばITサービス大手のTISが提供する「ヘルスケアパスポート」が、その一例だ。ただし日本では、医療機関から利用者への情報共有インセンティブが少ないといった課題もある。

 これら既存の課題を解決し医療健康情報の連携を図るには、都市や地域における行政と民間の様々な取り組み、およびそこで生成されるデータを有機的に結びつけるためのデータ連携基盤の構築が望まれる。

 スマートシティでは、全体のID連携とデータ連携を「都市OS」が担う。都市OSの仕組みを使ったヘルスケアデータの連携機能の構築・運用を考える必要がある(図2)。アクセンチュアでは、そうした仕組みの構築・運用を支援するための準備を進めている。

図2:アクセンチュアが考える医療健康データ連携の概念図

 次回は会津若松市のスマートシティプロジェクトにおけるヘルスケアの取り組み事例から、目指すべきヘルスケアの姿を実現するための課題について解説したい。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

谷田部 緑(やたべ・みどり)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 シニアマネジャー。福島県立医科大学医学部博士課程卒業。高血圧・内分泌領域を中心に米国、福島、東京の大学・医療機関にて基礎・臨床研究および診療・教育に従事。2020年アクセンチュア入社。官庁の医療情報に関するプロジェクトやスマートシティ事業ヘルスケア領域の構想策定・実証・実装に参画している。