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IR(統合型リゾート)が目指すエンタメ型スマートシティ実現の鍵【第23回】

藤井 篤之、柳田 拓未、平井 瞳(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2023年2月16日

IRとスマートシティの最大の違いは訪問者が主体になること

 前述したように日本型IRの方向性は、よりエンターテインメント型スマートシティへと向かっている。その姿は既存のスマートシティに対し、どのような共通点および相違点があるのだろうか。

 共通点としては、地域の課題解決やインフラ整備にデジタル技術を活用することと、地域住民の合意を取りながら進めていくことが挙げられる。カーボンニュートラル化やフードロス対策といったサステナビリティ(持続可能性)への対応が求められることも共通点と言えるだろう。

 相違点としては、既存のスマートシティは地域住民が主体になるのに対し、日本型IRでは、海外からの旅行者を含む訪問者が主体であることだ。そのため、訪問者に対する非日常感や特別感が、より強く求められる。

 つまり日本型IRが目指すエンターテインメント型スマートシティでは、通常のスマートシティのように「周辺地域に資するスマート化」が求められるだけでなく、「幅広い訪問者に向けたスマート化」と「周辺地域と訪問者の有機的な連携」が求められる。

 「幅広い訪問者に向けたスマート化」とは、楽しみ以外の一切の無駄を省くと共に、エンタメをさらに加速するためのスマート化を進めることである。例えば前者では、施設入場やイベント観覧の予約・決済機能、訪問者一人ひとりに合わせた体験を推奨するパーソナライズレコメンドなどが挙げられる。後者としては、没入感のある仮想体験を実現するVR(Virtual Reality:仮想現実)/AR(Augmented Reality:拡張現実)を取り入れた施策などが考えられる。

 「周辺地域と訪問者の有機的な連携」では、ポイントプログラムや送客プログラムなどを使った来場者の地域送客、道路の渋滞緩和などのオーバーツーリズム対策、地域全体のスマート防犯・防災といった施策が挙げられる。

 こうした日本型IRの参考になるエンターテインメント型スマートシティの海外事例の1つに、米マサチューセッツ州ボストンに作られた「アンコール・ボストンハーバー」がある。首都圏以外の大都市圏を拠点に、地域と密接に連携した魅力を高めるための取り組みを推進している点で、日本型IRの環境に極めて近い。

 アンコール・ボストンハーバーは当初は、周辺住民からカジノに対する不信感や根強い反対意見があった。だが、交通領域を中心とする地域課題の解決とインフラ整備への貢献、周辺地域への送客による経済効果といったエンターテインメント型スマートシティに向けた取り組みが次第に評価され、開業の3年前には住民の85%以上が賛成するに至っている。その過程は、日本型IRにとって大いに参考になるだろう。

 では日本型IRでは、どのような領域のスマート化が注目されるのだろうか。それについてアクセンチュアは、(1)セーフティ&セキュリティ、(2)多様化 × パーソナライズ、(3)バーチャル、(4)サンドボックスの4領域だと考えている(図2)。

図2:日本型IRにおける注目のスマート化領域(作成:アクセンチュア)

 各領域において、どのような取り組みが期待されるかを海外事例を紹介しながら解説したい。