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IR(統合型リゾート)が目指すエンタメ型スマートシティ実現の鍵【第23回】

藤井 篤之、柳田 拓未、平井 瞳(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2023年2月16日

日本型IRにおける注目のスマート化領域

領域1:セーフティ&セキュリティ

 海外のIRでは例外なく、カジノ施設はもちろん、IR施設全体や、その周辺地域のセキュリティシステムに世界最高水準のデジタル技術を取り入れている。日本国内でも同水準の安心・安全を担保しながら、顧客体験を高めるサービスの提供が求められることになる。

 例えばラスベガスでは「スマート・ラスベガス」と呼ばれるプロジェクトが進められている。街中に高解像度カメラやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)デバイスを配備し、それらのデータを解析することで、交通渋滞の緩和や犯罪の早期感知、初期対応の時間短縮を実現する。このプロジェクトには日系企業も積極的に参画している。

 世界最大級のIR開発企業である米MGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)は、訪問者個々の健康状態を一括管理する2次元コードを発行するほか、リアルタイムでの混雑モニタリングや動線分析により過密防止対策を実行する「MGM Health Pass」という仕組みを提供している。

領域2:多様化 × パーソナライズ

 IRには、インバウンド(海外観光客)を含む多種多様なバックグラウンドや嗜好を持つ訪問者が来場する。そのため、エンターテインメントのコンテンツ提供から決済手段まで、選択肢を最大化しながらも、選ぶ手間を感じさせない満足感の高いパーソナライズが鍵になる。

 例えばラスベガスでIRを運営する米Wynn Resortsは、訪問者個々の嗜好に合わせたレストランやアクティビティを薦めるサービスに加え、旅程や混雑状況を加味したクーポンを配布する「Wynn Resortアプリ」を提供している。

領域3:バーチャル

 IRに求められる「非日常感」を醸成しエンターテインメント感を高めるとともに、現地にいなくとも疑似体験ができるような利便性を高めるバーチャル機能の活用も有効になる。

 シンガポールのマリーナベイサンズにある「ArtScience Museum」では、デジタルアートの常設展「FUTURE WORLD」を展開し、高精細液晶・LEDを活用したインタラクティブなアート体験を提供している。MICE施設では、ハイブリッドなMICEスタジオを用意し、リモートでの登壇者をホログラムを使ってリアルタイムに投影したり、オンライン参加者向けにVR/ARを活用したバーチャルストリーミング機能を提供したりしている。

 ちなみにFUTURE WORLDは、日本のデジタルコンテンツ制作会社チームラボを主体として運営されており、日本のデジタル技術の応用が期待される領域でもある。

領域4:サンドボックス

 IRは民間事業者が所有する私有地に建設されることが多い。そのため先進技術を実証するためのサンドボックスとしての活用も検討されている。例えば、公道では規制がある自動運転車や電動キックボード、ドローンなどを、私有地で実証を重ねることでスマートシティに向けた技術・規制改革の推進が見込まれる。

 実際ラスベガスでは、ライドシェア大手の米Lyftが自動運転による無人タクシーサービスを実証しており、2023年にも商用サービスを開始する予定である。なおリフトの自動運転部門「Level 5」は、トヨタ子会社のウーブン・プラネット・ホールディングスが買収することで2021年に合意しており、ここでも日本企業の活躍が期待される。

情報不足によるIRへの偏見が生まれる状況をなくす

 IRが目指すエンターテインメント型スマートシティの中心は、既存のスマートシティ同様に、あくまでも“人”である。それを支える地域や企業の理解と協力があって初めて成功につながる。それだけに、上述した4領域をはじめとするスマート化のチャンスを活かすには、IRに対する正しい理解をいかに深められるかが鍵を握る。

 日本型IRは、今まさしく本格的に動き出したばかりのタイミングにある。考慮しなければならない要素も多いだけに、情報不足による偏見が生まれる状況を取り除くことが重要だと考えられる。IRに対する正しい理解を深めることが、近未来のスマートシティの先駆けとなる新たな街づくりへとつながっていく。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

柳田 拓未(やなぎだ・たくみ)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ M&Aプラクティス シニア・マネジャー。2012年アクセンチュア入社。新規事業立上・アライアンス戦略策定を専門とする。IRをはじめ、スマートシティ、メタバース領域など先端技術・ビジネス領域に強みを有すると共に、官公庁・通信・インフラ・金融・製造・エンタメなど幅広い業界・テーマにおける戦略策定実績が多数ある。

平井 瞳(ひらい・ひとみ)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ M&Aプラクティス マネジャー。蘭ライデン大学 法学部国際法学科卒業後、2019年アクセンチュア入社。IR含む法社会学に高い専門性を有し、広く深い知見を武器に新規事業立上・アライアンス戦略策定を推進。IRを中心に、スマートシティ、ドローン、カーボンニュートラル、データセンターなどの戦略策定を通じた社会課題解決に従事している。