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IR(統合型リゾート)が目指すエンタメ型スマートシティ実現の鍵【第23回】

藤井 篤之、柳田 拓未、平井 瞳(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2023年2月16日

「特定複合観光施設区域整備法(以下、IR整備法)」が2018年7月に成立・公布されて以後、日本国内でもIR(統合型リゾート)の整備に向けた動きが本格化している。最先端技術を採用した街づくりが進むIRは、「エンターテインメント型スマートシティ」ともいえる。今回は、先行するIRを中心としたスマートシティの海外事例を紹介しながら、整備構想が進む日本のエンタメ型スマートシティの近未来像を考えてみたい。

 「IR(Integrated Resort:統合型リゾート)」とは、複合型の観光集客施設のことである。国際会議場や展示場といったMICE(Meeting:会議・研修、Incentive travel:報奨旅行、Convention:国際会議・学会、ExhibitionまたはEvent:展示会・イベント)関連施設や、ホテル、ショッピングモール、娯楽施設など、さまざまな集客施設を一体的に整備する。

米ラスベガスの複合・滞在型をシンガポールが統合型に

 一般にIRはこれまで、カジノを中心とした施設単体を指す意味で用いられてきた。それが近年は、カジノを含む複合施設を中心とした「エンターテインメント型のスマートシティ」を志向するように変化してきている。その歴史を振り返ってみる。

 最初のIRは1940年代に米国ネバダ州ラスベガスで誕生したと言われている。砂漠の中継地点に過ぎなかったラスベガスに、カジノを併設したホテルや、ファミリー層向けの賭博行為を伴わないアミューズメント施設が続々と建設されていく。それらを掛け合わせた「滞在型リゾート(Destination Resort)」として発展したラスベガスは、世界最大級のエンターテイメント観光都市として広く認知されるようになった。

 2000年代に入ると、カジノ併設ホテルを中心とするラスベガス型の観光都市が世界中に作られていく。アジアでも当時、ポルトガルから中国に返還されたばかりのマカオ特別行政区が「東洋のラスベガス」と呼ばれるまでの観光都市として発展した。

 ラスベガス型の観光都市を進化させ、世界に知らしめたのがシンガポールである。自国の資源に限りがあるシンガポールは、観光業を主力産業として隆盛させるべく、1985年からカジノ開設の議論を始めていたものの却下され続けていた。2004年、シンガポール通商産業省はカジノ開設を改めて提案する。その際、「我々が検討するのは単なるカジノではなく、さまざまな集客施設を一体的に整備する複合型観光集客施設(Integrated Resort)だ」としたことから「IR」という言葉が生まれた。

 IRのコンセプトが議会と国民に広く受け入れられたことにより2005年、シンガポールでのIR導入が決定した。2011年に開業したIR施設「マリーナベイサンズ」は今や同国を象徴する存在になっている。

シンガポール型を受け継ぎ“エンタメ型”を目指す日本型IR

 シンガポール型IRのコンセプトを受け継ぎ、IRを中心とする「エンターテインメント型スマートシティ」への発展を目指しているのが日本のIRだ。 2018年7月に成立・公布された「特定複合観光施設区域整備法(以下、IR整備法) 」では、「カジノ施設」に加え「観光振興に寄与する諸施設」として6つの施設を定め、それらを一体的に設置・運営するものだと定義・規定されている(図1)。

図1:日本型IR(統合型リゾート)の定義と規定

 日本型IRの特徴は、カジノ施設に対し、先行する海外規定から最も厳しい(安全性の高い)規制を組み合わせて採用したうえで、「地域住民の合意形成」「周辺地域への波及効果」を要件として強く求めているところにある。

 規制面では、カジノ施設の面積を3%以下に制限すること、入場規制や入場料の規定、依存症対策などがある。さらに、カジノを運営する民間事業者に対する公租公課などはシンガポール型を、民間事業者に対する厳しい背面調査やマネーロンダリング対策などはラスベガス型を、それぞれ参考に取り入れる。

 また6つの施設のうち「観光振興に寄与する施設」については、国内最大規模となる施設を同一エリアにまとめるとしている。