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デジタル技術で変わっていくコミュニティの姿【第24回】

藤井 篤之、林 智彦
2023年5月18日

変化5:メタバースを活用したコミュニティが登場

 インターネット上の仮想空間であるメタバース上で活動するコミュニティが急増している。リアルなコミュニティ活動には、どうしても場所(地域)という制約が付き物だ。だがメタバースであれば、場所の制約を一切受けることがない。地域の諸課題解決に取り組む地域コミュニティとは異なり、メタバース上でアバターを使って単におしゃべりするだけの“緩い”コミュニティも登場している。

 例えばメタバースプラットフォームとして知られるソーシャルVR(仮想現実)サービス「VRChat」では、真夜中のルーフトップに集まって街のネオンサインを見下ろしながら会話を楽しむというコミュニティが最もポピュラーな利用形態の1つになっている。匿名で気兼ねなく自分のアバターを介して、各人の「好き」を表現することで、気の合うユーザーとつながれる。現実世界のコミュニティは、また異なる価値を生んでいる。

産官民連携による新たな“まちづくりコミュニティ”も

 ここまでスマート化・デジタル化の進展が引き起こしているコミュニティの変化を紹介した。そうした中、スマートシティの取り組みを加速させている地域では、住民と地方自治体、まちづくりに関わる企業とその従業員が一緒になって街づくりを進めるコミュニティが誕生している。

 例えば、福島県会津若松市の「スマートシティ会津若松」は、市や会津大学と連携する一般社団法人AiCTコンソーシアムがプロジェクト推進の中核に位置している。地元企業や国内大手企業、グローバル企業など約90社が加盟し、うち40社以上が市内の「スマートシティAiCT」にオフィスを構えるなど新たなコミュニティを形成している。

 Fujisawaサステナブル・スマートタウン(神奈川県藤沢市)には、「Fujisawa まち親プロジェクト」というコミュニティ活動がある。住民や参画企業、街で働く人たちが参加し、「街を育てる」を目標に、タウンミーティングやさまざまなイベント、実証実験を通じてアイデアを出し合い、形にしていく活動が進められている。

 また、スマートシティ化が進む東京の大手町・丸の内・有楽町エリアでは、街で働くビジネスパーソンを対象に、学びや体験の場を提供するコミュニティ「丸の内朝大学」を開講し、地域に新しい価値を生み出す研究などに取り組んでいる。

 次回は、これら新たな価値を持つコミュニティを生み出すのに必要な“デザイン”について解説する。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

林 智彦(はやし・ともひこ)

アクセンチュア ソング/アクセンチュアベンチャーズ プリンシパル・ディレクター。慶應義塾大学卒業後、アーティストとのクリエイティブ会社とロボットスタートアップを経営した後、博報堂を経てアクセンチュア入社。Web3/メタバース、カーボンニュートラル、スマートシティなどにおける最新の顧客体験開発や、マーケティング、スタートアップ協業に取り組む。カンヌライオンズ、文化庁メディア芸術祭、日本賞などテック・アート・広告分野で多数受賞している。