• Column
  • スマートシティのいろは

デジタル技術で変わっていくコミュニティの姿【第24回】

藤井 篤之、林 智彦
2023年5月18日

はるか昔から街の重要な構成要素の1つが「地域のコミュニティ」である。街とはいわば、地域の住民同士をつなぐ、さまざまなコミュニティが結びついた集合体であり、これはスマートシティでも何ら変わることはない。一方で、デジタル技術を活用するスマートシティだからこそ生まれる新しいつながり方など、コミュニティの意味や役割は少しずつ変化しつつある。

 “コミュニティ”とはそもそも「居住地域を同じくして利害をともにする住民同士による共同体・隣保組織」のことである。日本においても古くから、江戸時代の「五人組」や戦前の「隣組」など、さまざまな形で存在してきた。現代も「町内会」や「自治会」といったコミュニティが組織され、地域に根づいた活動が続けられている。

コミュニティは街づくりの重要な構成要素

 このようなコミュニティが存在してきた理由は、市町村という基礎自治体単位の行政サービスだけでは、ごく狭い地域に限った種々の課題解決が難しいからだ。その地域で暮らす住民のコミュニティ活動があるからこそ、個々の地域に共通する課題を解決し、より良く、より強い“レジリエントな(強靱な)”街づくりが可能になる。「人間の幸福や健康にとって“つながり”は極めて重要だ」と、予防医学研究者の石川 善樹 氏は複数の著書で説いている。

 コミュニティに対する認識は世界共通だ。最近は地域の特定ニーズに対応するコミュニティも数多く見られるようになった。例えばスイスには、遊具を貸し出す“遊具の図書館”とも呼ぶべき「ルドテーク(Ludothek)」という施設がある(写真1)。地域の住民が、使わなくなったボードゲームやキックボード、人形といった遊具や玩具を預け、それを必要とする住民が借りるというシェアリングコミュニティだ。

写真1:「ルドテーク(Ludothek)」は遊具を住民に貸し出す“遊具の図書館”である(写真提供:ルドテーク)

 ルドテークにより住民の子供たちは、遊具や玩具を都度買わずに済み経済的であるだけではなく、街の住民同士が交流する場にもなる。サービスを有料のサブスクリプション(購読)型で提供することで、コミュニティで活動するボランティアが報酬を受け取れるなど、サステナブル(持続可能)な仕掛けがあるのも特徴だ。

 このように単なる地縁集団から徐々に発展してきたコミュニティだが、そのあり方は、スマートシティにおけるスマート化やデジタル化の進展により、少しずつ変わりつつある。コミュニティに起きている5つの変化を紹介する。

変化1:信頼できる隣人の輪が広がる

 デジタルを活用した“つながり”の例として注目されるサービスの1つに、米国の「ネクストドア(Nextdoor)」がある。スイスのルドテーク同様に、「不要なものをあげます」「必要なものを探してください」といった住民同士のやり取りを可能にする「ご近所SNS(ソーシャルネットワークサービス)」だ。利用には本人確認が必要なことから、匿名によるトラブルが発生しにくく、リアルなコミュニティよりも“信頼できる隣人”の輪が広がるなど、地域コミュニティのプラットフォームとして機能している。

 かつての“つながり”は居住地域が同じという地縁に基づくものだった。それがデジタル技術の発展により居住地域に縛られなくなってきている。ネクストドアを利用できるのは対象地域の住民のみだが、日本の同様のサービスである「ジモティー!」は利用者を地域住民に限定していない。本人確認を必要とし「地元に根差したサービス」を掲げるが、対象となる地元の「隣人」を、その地域のファン層などリアルとバーチャルを含めた交流人口にまで広げたサービスだと言える。